2012年11月5日月曜日

ますます複雑化するリスティング広告という世界で生きていくために



リスティング広告が誕生してから早10年以上が経ち、揺籃期からは想像できないくらい、その複雑さは増しています。プラットフォームとしての重要性が増すにつれ、できることがどんどん増える反面、初心者からすると非常にとっつきにくいまでに設定は複雑化してきています。


現在では、検索クエリや配信先の情報にはじまって、いつ、どこで、どんな人たちに、何の広告を、いくらで、どうやって出すか(出したか)という情報はほぼもれなく手に入り、ある程度までコントロールすることができるようになりました。さらに、アクセス解析データ、商品や購買データ、地図情報など、リスティング広告を実施するにあたって考慮し活用すべき範囲はますます拡がっています。



肥大してきたアカウント


これまでは、(極端に言ってしまえば)リスティング広告はキーワードや広告をたくさん入稿し、昼夜を問わず入札していればそれなりに何とかなっていたと思いますし、そういう認識の人も多かったと思います。

一方で、増改築を繰り返した家に匠のビフォーアフターが必要なように、最初の設計がイマイチなアカウントは徐々に膨張や複雑化をせざるを得ず、運用がしにくくなって機動力が徐々に減退していき、いつしか効果の頭打ちや運用コストの肥大化を支えきれなくなって破綻する、といったケースもSEMの運用においてはよく見られた光景でした。(それで取り扱う代理店がコロコロ変わっていたりすることも…)

広告テクノロジーと呼ばれる分野では多くのプレイヤーが現れ群雄割拠の様相を呈しており、インターネット広告の進化の中心は完全にそちらに軸を移したように感じがちですが、リスティング広告は多くの企業にとってネット上でのペイドメディアの最優先手法であることには変わりがありません。また、リスティング広告は運用型の広告の先駆けでもありますし、この1-2年では特に進化の速度を上げています。

つぎはぎだらけの肥大したアカウントでは、新しいデータや手法を取り入れるスピードがどうしても鈍ってしまいがちです。



アカウント設計のコツ


あらかじめ大きな構成になることが分かっているアカウントはどのように設計すればいいのでしょうか。

広告代理店 Fathom のディレクターである Brad Miller 氏は、SEWに寄稿した「3 Enterprise SEM Challenges & Solutions (企業のSEMにおける3つの課題と解決策) 」というポストで、大きな企業アカウントの設計には、以下の5つのようなコツがあると伝えています。


<参考>
http://searchenginewatch.com/article/2220401/3-Enterprise-SEM-Challenges-Solutions




・キーワードを関連性のある広告のある広告グループに最小分割して割り当てる
・ドメインごとにアカウントは分ける
・広告グループ内に10から20キーワード以上入らないように心がける
・ブランドキーワードとそれ以外ではキャンペーンを分ける
・サイトリンクなど、広告設定オプションに適用できるようキャンペーンを分割する



これらは、普段からSEMをしっかり運用している人にとっては「そんなの当たり前じゃないか!」と思うようなことばかりだと思います。

(ちなみに、同記事の別の項目では「誰もが分かり運用しやすいような明確なネーミングルールをつくる」とか、「自動化を推進する」とか「意思決定は一箇所にする」などもあって、納得の内容ですのでぜひ原文をチェックしてください!)

しかしながら、その当たり前がしっかりできているアカウントは残念ながらそれほど多くないのが実状です。

「キーワードを関連性のある広告のある広告グループに最小分割して割り当て」れば、自然と「広告グループ内に10から20キーワード以上入らな」くなりますが、関連性の高い広告グループの分割をまとめる上位概念であるキャンペーンを設計するときは、ブランド、ドメイン、商品、ターゲット手法、ターゲット地域、デバイス、予算、広告オプションとの親和性など、あらゆる側面から判断しなければ運用や最適化がしやすいキャンペーン構成にはなりません。もちろんウェブサイトの構成や競合性なども考慮する必要があります。「そんなの当たり前」の「当たり前」は、よくよく考えるととても高いハードルなのかもしれません。

リスティング広告でできることが増えたからこそ、アカウントの全体設計と運用性の向上に、代替のきかない価値がひそんでいるのだと思います。



部門を超えた連携の必要性


スピードの鈍化は、アカウントの設計だけでなく、考慮すべきデータの範囲が広がったことによって、単一の部門だけで完結せず、組織を横断し連携する必要がある業務が増加したことも要因のひとつとして挙げられます。

プロモーションで使える手持ちの武器が増えたことによって関わるステークホルダーの数が増えやすくなったため、企業のサイロ化が意思決定を阻害するケースが以前よりも目立つようになりました。

SEL(Search Engine Land) の「3 Guidelines To Scale Your SEM Team(SEM部を拡大させる3つのガイドライン) 」という記事では、「Minimize The Distance Between Stakeholders & Execution (ステークホルダーと実行部隊の距離を最小限にせよ)」と謳って、ステークホルダーの増加によるミーティングの増加と、それに伴った効率の悪化を図にしています。






このあたりは組織形態によってその時の最適解は違うかもしれませんが、意思決定のプロセスをシンプルにするというのはどのような建て付けの組織でも言える最大公約数的な答えの一つではないでしょうか。この記事の著者は、責任の所在と意思決定のプロセスを明確に決めたことで不要なミーティングを削ることができ、週に10時間ほど時間を作れるようになったそうです。

同記事では、組織の仕組みとしてステークホルダーと実行部隊の距離を近づけるだけでなく、実務上での業務配分を変えるというアプローチも同時に採用することが効果的だとしています。

you should have an additional 10 hours a week to become a dual purpose manager. If managers spend a percentage of their time doing front line work, it will automatically increase the productivity of the team.
(1週間のうち10時間をプレイングマネージャーとしての役割に割くこと。もしマネージャーが一定の割合でフロントの業務に時間を割けば、自然とチームの生産性は向上するだろう。)

現場の業務がどんどん複雑化しているので、現場の業務が分からない役割だけのマネジメントは、正確な意思決定ができず、現場の気持ちを汲んだり障害を取り除いてあげるような行動が起きにくいため、チームの生産性を高めることができない、ということですね。

大きい組織での部門間の壁は永遠の課題ですが、少しでも実務を阻害する要因を取り除くために、先ほど取り上げた「3 Enterprise SEM Challenges & Solutions (企業のSEMにおける3つの課題と解決策) 」には、以下のような態度が有効だと提案しています。言うは易く行うは難しですが、ご参考まで。


・Maintain a “get it done” attitude. (”終わらせる”習慣を維持する)
・Find or create your internal champion. (内部の賛同者を見つける/作る)
・Make it easy. (手間を省く/自分でやる)
・Follow up. (フォローアップを欠かさない)
・Utilize Politics. (政治を逆に利用する)




増え続けるチャネルとトラッキング


リスティングで考慮するデバイスがPCだけだった数年前と比べて、現在ではタブレット・スマートフォンと、単純にその数は3倍になりました。そして必ずしもデバイスだけ変えたコピーキャンペーンでよいとは限らず、むしろデバイスごとにそのシーンに合わせてキーワードやメッセージ、LPなどを変えないとユーザーを的確にナビゲートできず結果も伴わなくなるため、オペレーションコストはデバイス以上に肥大していると思います。

2012年10月に行われたSMX EAST のフォローアップ記事である「Paid Search Advertising Gets More Complicated in 2013 (2013年にはリスティングはもっと複雑化する)」にも、2012年8月に初めてPCの検索数が前年割れしたというニールセン(記事だとコムスコアになっていますが…)のデータを引用して、検索数全体は成長しているものの、デバイスのカニバリゼーションは不可避で、マーケターは対応を進めるべきだと伝えています。

<参考>
Paid Search Advertising Gets More Complicated in 2013




デバイスに限らず、検索連動型広告だけでも毎月のように新しい機能がリリースされていますし、それ以外にもディスプレイ広告、アプリケーション・地図・電話、ショッピングデータ連携など、考慮すべき手法は数多くあります。デバイスや手法の分だけ広告フォーマットを用意し、それぞれにトラッキングを行わなければなりません。

また、アトリビューション分析やアトリビューションマネジメントでも、大抵の場合リスティングは重要な役割を担います。アカウントの設計と運用の設計、トラッキングの設計は成果を求めれば求めるほど連動するので、マーケティングの全体設計にリスティングの運用者が担う役割というのは今後ますます大きくなってくるのは間違いないでしょう。



リスティング広告従事者のこれから


非常に早いスピードで変化し、複雑化が進んでいくデジタルマーケティングの環境において、リスティング広告従事者は何を心がけて、どのようにふるまっていけばいいのでしょうか。

SEWの「Innovate or Die: Where Will SEM (and You) be in 5 Years? (イノベーションか死か:この先5年間でSEMはどこへ向かうのか?)」という記事は、SEMという突風に吹き飛ばされないために心がけることとして、以下の5つを挙げています。

How to Ensure You Aren’t Blown Away in the Winds of SEM
Better Knowledge: Stay on top of all industry news, and try to learn about latest developments as quickly as possible.
Broader Horizons: Go beyond your horizons in SEM. With your unique focus on ROI/ROAS metrics, and detail-oriented philosophy, there’s no reason why you can’t manage everything from display campaigns, to offline guerilla marketing campaigns.
Efficient Processes: You will have to learn/continue to learn how to do the lower end work at a lower cost, without sacrificing quality. An in-house analyst won’t be able to outsource some of the lower end work, and you can create better efficiencies, and monetize at lower or equal rates to an SEM analyst.
Innovate: You will need to prove your value consistently, by innovating and showing your clients the innovation. In-house analysts just can’t innovate as fast as you can.
Love Your Clients: It’s easy to gain clients now, not so in the future. Make a special effort to love your clients now!


SEMという突風に飛ばされないために
・知識: 業界のニュースに精通し、可能な限り新しい手法にトライし続けること
・限界を設けない: SEMについて勝手に限界を設定しない。ROIや細部の調整にフォーカスするリス男(女)が、ディスプレイキャンペーンやオフラインのマーケティングができない理由は特にない
・プロセスの効率化: 品質を犠牲にせず、効率よく仕事を進める術を探求し続けること
・革新: 革新や改革をし続けることによって、自身の価値を示し続けなければいけない
・顧客を愛する: 顧客を得ることはこれから難しくなるので、目の前のお客さんに全力を尽くすこと


折しも、先月(2012年10月)に行われた ad:tech tokyo では、クロージングキーノートで Yahoo!Japan のマーケティング領域の脱皮が宣言され、2013年からの大規模な改革が明示されました。

Yahoo! JAPANの新広告ソリューション
http://advertising.yahoo.co.jp/newbrand/

2013年、SEM従事者の仕事は間違いなく増え、重要度はますます大きくなると思います。ニュースにアンテナを張り、新しいアイデアを現場で進めていきながら、目の前の顧客に還元していくにはこれ以上ない環境の揃った年になるのではないでしょうか。自分で限界を設定しなければ、仕事はいくらでも作れる、リス男(女)はそういう場所に立っているのだと思います。

上記の5つの心がけは、リスティングに限らずどんな職業でも本来必要な心得です。たまたまこの業務は変化のスピードが早いので、こういった心がけの有無によって生じる差が顕在化しやすい、ということなのかもしれません。

ますます複雑化するリスティング広告。この風に乗るか飛ばされるかはこれからの自分次第です!
 



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