音声検索の成長と、広告主と広告運用者がすべきこと

音声検索はスマートスピーカーで追い風に


Google Home や Amazon Echo のようなスマートスピーカーの登場をきっかけに、音声入力/音声検索がにわかに脚光を浴びています。

Google は2008年にはモバイル用アプリとして音声検索を導入(日本語版は2009年)しており、音声入力がブレイクするきっかけとなったAppleの「Siri」も日本語対応は2012年で、既に登場から一定以上の時間が経過しています。現在ではスマートフォンでの音声入力は基本機能として実装(Androidであれば2014年から)されていて精度も高く、長い時間をかけて研究と普及が進められてきた音声検索は、方法としては突然現れた目新しいものではなく、徐々に時間をかけて世の中に浸透していった感があります。

おそらくは、音声のみを前提としたデバイスの華々しい登場が、マーケットの眼を強制的に音声入力の可能性へ向かわせているのかもしれません。

公共の場では心理的な抵抗がある音声入力も、プライベートな空間であれば利用しやすくなります(※図1)。スマートスピーカーのようなホームデバイスの登場は、その利用シーンを促進する示唆的な存在だとも言えるのだと思います。


※図1:Stone Temple 社の調査「Mobile Voice Usage Trends in 2018」より


音声検索に、マーケットは強気


デバイスが普及すればするほど、周りで音声入力を使う機会に触れれば触れるほど、利用に際しての心理的な敷居はどんどん下がっていくと考えられます。今後スマートスピーカーをきっかけに家庭内でのハンズフリーが常態化し、音声入力を前提としたアプリケーションの普及が進んでくると、世の中の入力(≒クエリ)における音声の割合はますます増えてくると予想されます。


※KPCB も Google I/O の発表を引用して音声検索の急成長に言及しています


実際、マーケットの見方は強気なものが多く、リサーチ企業の comScore は 2016年11月には「50% of all searches will be voice searches by 2020 (2020年には全検索の約半分が音声検索になるだろう」と発表していますし、コンサルティング企業の Capgemini が実施した調査によれば、「音声を介したEコマースは、現在は全体の3%に過ぎないが、それが今後3年で18%まで上昇するだろう」というコメントを出しており、音声入力の急速な発展を予測しています。

参考: Capgemini Worldwide の調査
「Voice assistants set to revolutionize commerce and become a dominant mode of consumer interaction in the next three years」

Amazon は Alexa の音声アプリからサードパーティの広告を禁止するポリシーを打ち出していますが、いずれ Alexa から広告を出せるようになる日が来るのでは、という憶測が絶えないことも、マーケットの盛り上がりを象徴しているといえるのではないでしょうか。

参考: TechCrunch Japan の記事
「AmazonのAlexaには、いずれ広告が入るかもしれない」


音声検索が、広告運用にどう影響するのか


音声入力が伸びるのは分かったとして、広告を運用する側の問題は、それをどのように自社のマーケティングに適用していくのか、ということだと思います。

いくらスマートスピーカーが盛り上がっているとはいえ、現時点で検索クエリの多くはスマートフォンから発生しています。音声入力がしばしば「アシスタント」の役割として位置づけられているように(Androidではそのまま「Google アシスタント」という名前ですし)、キーボードをタイプして行うこれまでの検索が「インターネットという辞書を引くことの代替」だったとすれば、音声検索は「機械というアシスタントへの質問の延長」と捉えていいかもしれません。


そして、字引と質問では、原理的に入力(クエリ)の幅に大きな差が出ます(※図2)。


※図2:Moz の「How Voice Search Will Change Digital Marketing — For the Better」より


上記の図でも、音声検索の最頻値は3トークンで、その後も4−8トークンといった長めのクエリの量が通常の検索と比較して多いことが分かります。この調査が2016年のものだと考えると、クエリの多様化は音声アシスタントの普及でますます傾向として強まっていると考えるのが自然だと思います。

では、クエリの多様化に一体どのように対応していけばいいのでしょうか。4つに分けて考えてみました。


対応1:テールワードの拡がりへ、部分一致での対応


クエリの幅が広がるということは、検索連動型広告でいえば、キーワードがカバーする範囲を広げる必要があるということです。つまり部分一致の役割が重要になります。

拡張を忌み嫌い、完全一致に固執するアカウントは機会損失がどんどん増えていってしまう可能性があります。(可能性というか、確実にそうなります) 部分一致のマッチング精度を上げるために重要なことの一つは広告の品質を上げることですので、キーワードへの入札ではなく、ターゲットに沿った広告文と URL を用意するという、極めて基本的かつクリエイティブな作業の重要性が再認識されることになるはずです。

対応2:テールワードの拡がりへ、フィードとコンテンツでの対応


シンプルなサービスや単品通販ならさておき、ターゲティングの種類が多いサービスや商材であれば、キーワードだけではおのずと限界がきてしまいます。そのときに考えうる対策は、やはりデータフィードや動的検索広告です。Eコマースであればショッピング広告は既にモバイルでは欠かせない手法ですが、常に更新される商品情報とデータフィードがうまく連携できれば、Eコマースに限らずデータフィード広告が大きな武器となるでしょう。サイトのコンテンツが充実していれば、インデックス情報から自動的にマッチングしてくれる動的検索広告は、扱うサービスや商品の種類が多ければ多いほど、既存のキーワードを大きく凌ぐ活躍を見せてくれるはずです。

たとえば、筆者がアドバイスしている複数のEC関係アカウントでは、同一商品を展開するキャンペーン群を、2017年1月と2018年1月とで比較すると、いずれも総表示回数は予算配分の関係で微減(-10%〜15%程度)しているにもかかわらず、一定以上の表示回数およびクリックが発生したクエリの数は、全体で20%〜25%程度増加していました。増加分のほとんどはショッピング広告と動的検索広告、2トークンの部分一致キーワードで占められており、検索側の変化へアカウントとしてどのように対処すべきかを改めて感じる結果となっています。

広告でデータフィードや動的検索広告の恩恵を受けるためにも、データの構造化は必須です。結果的に、それがウェブサイトであれば構造化マークアップへとつながっていきますので、SEOの領域と広告が協働していく、という動きが加速するのではないでしょうか。

参考: Unyoo.jpの記事 「Unyoo.jp特別鼎談:SEOとPPC、共存の道をさぐる ーアユダンテ村山さん、寳さん」


対応3:リアルとの連動


店舗を持っているようなサービスの場合は、音声検索との親和性は高いはずです。以下の Stone Temple社の調査(※図3)に限らず、モバイルの検索クエリのうち、地域情報に関わるものの比率が高いことは周知の事実で、それが音声検索によってさらに引き上がってきています(図では「Map navigation」が該当)。


※図3:Stone Temple 社の調査「Mobile Voice Usage Trends in 2018」より


そうなると、地図アプリで最もシェアが高く、Googleアシスタントとも密接に連動しているGoogle マイビジネスへのビジネスリスティングは、今や店舗を持つ企業にとっては最重要施策の一つになります。サービスカテゴリ、住所、電話番号、営業時間など、情報をリッチにしておけばおくほど、地域に関する音声検索で自社店舗が表示される可能性が高くなります。

また、ローカル在庫広告のように、店舗の在庫も合わせて登録しておくことで、いわゆる簡易的なオムニチャネルを実現することにもつながっていくでしょう。

参考: Google Merchant Center ヘルプ「ローカル在庫広告の概要」


対応4:選択肢に入るための活動


音声検索に使われるデバイスがスマートフォンであれば「検索結果というユーザーの選択肢」が存在しますが、もしそれがホームスピーカーであれば、返される答えは常に1つだけです。1位以外は存在しない世界と言い換えてもいいかもしれません。(ほんのり漂うディストピア感…)

これは、ユーザー側の選択肢に入るためには、まずプラットフォームと繋がっていないといけない、ということを意味します。ユーザーの習慣に入り込むのはもちろんのこと、アプリがインストールされていたり、買い物をするためのアカウントが事前に発行されていないといけません。Google や Amazon のようなプラットフォームと繋がっていることはゲームに参加するための最低限のルールになってしまうでしょう。(小数の企業によるバックエンドの寡占リスクは、 Lloydの報告書でも指摘されていますが、今回は割愛します)

音声検索の隆盛は、それが性質として「質問」と近いがゆえに、ユーザーの(目の前の)選択肢が狭まる可能性を高めます。そうなると、音声への最適化以前に、選択肢に入れてもらうために「まず存在を知ってもらう」活動の重要性が高まりますし、アカウントを作ってもらったあとも、ユーザーにとって選択肢の上位に居てもらうための努力をし続ける必要があります。

これは本来、音声検索に限らずマーケティングの基本であり最も重要な目的の一つのはずですが、それが技術の進化によって一層浮き彫りになった、ということなのかもしれません。

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