2015年12月30日水曜日

今後の記事更新について

admarketech.は2011年の開設から一貫して広告運用者の環境、キャリアなどについて俯瞰的に捉える機会を模索してきました。

現在は姉妹サイト?のUnyoo.jpがその役割を担っていますので、2016年以後の記事更新は Unyoo.jp に集中する予定です。

ただ、admarketech. が別になくなるわけではなく、引き続き広告と技術の二人三脚を追いながら、Unyoo.jp ではあまり触れないような角度の話題を Facebookページ上で更新していく予定です。本ブログでも、気が向いたときにまとめ記事などを更新すると思いますので、時折チェックしてもらえますと嬉しいです。

その他参考リンク:
このサイトについて
State of AdOps「運用型広告の現在」



広告運用者(AdOps)としての生き方 ーまとめ編



広告運用者としての生き方

近年のデジタル広告取引における技術の進化は、「広告運用」という言葉の持つ意味合いに小さくない変化を与え続けています。


「運用」という言葉から連想されていた、入稿やレポート、請求入金等の取引業務といった従来の「保守」的な意味での仕事はどんどん圧縮されていく一方で、キャンペーンの成否を分ける最も重要な「分析」「設計」「最適化」のような成果に直結する実運用の重要性は日を追うごとに増加してきており、その実務を担う運用者の重要性も同様です。

大量のデータを扱うデジタル広告で、圧縮されていく業務というのは、システムによる自動化で代替されていくものです。そのシステム化・自動化が進めば進むほど、「運用や設計ができる人材」と「そういった人材を育む環境」という、機械から人への投資に市場関係者の力点が移り始めるいう逆説性があるように思います。

今後ますます増加の一歩を辿るであろう運用型広告市場において、現場の最前線を担っている広告運用者(AdOps)は、広告主、代理店、プラットフォーマーやベンダーなど、あらゆるステークホルダーにとって経営に直結するキープレイヤーとなるケースが、今まで以上に増えてくると思われます。

このコラムのタイトルである「広告運用者(AdOps)としての生き方」は、広告運用の情報サイト Unyoo.jp で3回に分けて連載したものです。今回は、それを一つにまとめて再編集し、資料も新たにすることで、広告運用者が置かれている環境、キャリアなどについて俯瞰的に捉える機会を得られればと考えています。


元記事へのリンク:
広告運用者(AdOps)としての生き方(1):雇用編 | Unyoo.jp
広告運用者(AdOps)としての生き方(2):企業編 | Unyoo.jp
広告運用者(AdOps)としての生き方(3):スキル編 | Unyoo.jp





広告運用者の雇用環境


インターネットビジネスの市場規模がどんどん大きくなるにつれ、「人が足りない!」という声が多くの成長企業で聞かれるようになりました。雇用が伸びていく中で、実際の広告運用の需要はどうなのか、いくつかの資料を見ながら考えてみたいと思います。


インターネット生態系の経済価値調査

かつてのメディア産業の雇用を支えていた代名詞といえば、テレビ、新聞、雑誌、ラジオなどのマスメディアでした。昨今ではインターネットがメディアが雇用の主役に躍り出てきています。


参考:Internet-Media Employment Fuels Digital Job Growth | Media - Advertising Age


上記は 2012年と少し古い記事ですが、 AdAge の調査機関である AdAge DataCenter が行なった調査によって、デジタルメディアがメディアビジネスの中で二番目に大きい雇用を擁する分野になったことが明らかになっています。アメリカのメディア産業に限れば、6人に1人はデジタルメディアの従事者になる計算です。2012年には既にテレビの雇用人数を超えていたとも言われています。

雇用の推移を表したインフォグラフィックが以下です。同じような傾向は、世界各国で起こっていると考えられます。




デジタルが雇用も売上も牽引

実際に、メディアビジネスにおけるデジタルの比率が急増していることは明らかで、メディアを扱うビジネスの変容は、明らかに数字に表れてきています。


参考:State of the Agency Market: What You Need to Know | Agency News - Advertising Age


上記は、Ad Age が米国労働統計局(Bureau of labor statistics)の調査を抜粋した記事ですが、2014年の広告関連の雇用は、デジタルメディア(Digital Media)関連職が昨対比13.8%増(174,200職)となり、過去最も需要が高まっているとのこと。




2013年は12.5%増(149,100職)だったことを考えると、デジタルメディアに関する職業はこの数年間で急激に雇用を拡大しており、完全に売り手市場にあることが分かります。

なお、このチャートで見ると広告会社(Ad Agency)の伸びが少なく見えますが、雇用はデジタルメディアよりまだ多く(192,100職)、2000年のドットコムバブルに次いで雇用が多いという状況のようです。

PR代理店に限って言えば、2014年の5.4%増は、2013年が2.4%増だったことを考えると伸びしろとしては一番大きいと言えます。ソーシャルメディアの急成長が起因しているほか、2015年から2016年にかけては大統領選挙が行われるため、PRの分野は更に大幅に伸びることが予想されます。


参考:State of the Agency Market: What You Need to Know | Agency News - Advertising Age


上記は代理店ビジネス(広告代理店だけでなくPR代理店等も含む)のデジタル比率を表したチャートですが、売上におけるデジタルメディアの比率は年々伸び、2014年には40%ほどになっています。2015年は更にこの比率が高まったものと思われます。

売上の伸びている分野は雇用機会も多いことは間違いありません。デジタルビジネスの成長にともない、ややタイムラグがありながらもデジタル関連職の雇用増が連動しているのではないかと思います。

もちろん、右肩上がりであっても伸びない会社もあれば、沈んでなくなってしまう会社も多くありますが、右肩上がりのいいところは、仮にうまくいかなかったとしても、市場全体が伸びている(そして変化している)ので、再起や再挑戦の道が、そうでない業界よりも多いということかもしれません。

日本でも、現在強烈に人材採用を進めている企業の多くが、10年前は存在すらしていなかったか、まだスタートアップの段階でした。



採用における需給ギャップも明らか

ExchangeWire が2014年10月に行なったフランスのアドテク関係者(ベンダー、メディア、トレーディングデスク等)への調査によると、半分近く(48%)の回答者が、プログラマティック取引の環境において、従事者のスキルが足りていないことを課題として挙げています。

この調査が行われた1年前にOMI(Online Marketing Institute)がフォーチュン500の企業および広告会社の経営陣、計747人を対象にした調査でも同様の結果が出ており、世界的にもデジタル領域に強い人材が足りておらず、需要が高いことが示されています。


参考:‘Où sont les talents?’ French Programmatic Survey Reveals Skills Gap Impeding Growth | ExchangeWire.com



では、その足りないスキルとは具体的にどういった分野なのでしょうか。

先ほどのOMI(Online Marketing Institute)のレポートによれば、 デジタルビジネスの中でも、特に以下の職能/スキルについて、重要性と実際の人材のバランスにギャップがあるという結果が出ています。


参考:Digital Marketing Talent Report: Skills Are Inflated, Talent Is Slim - OMI Blog


一番ギャップが大きいのは Analytics(分析)で37%、次いで Mobile(モバイル)、Content Marketing(コンテンツマーケティング)、Social Media(ソーシャルメディア)、Email Marketing(Eメールマーケティング)と続きます。

Digital Advertising(デジタル広告)は、ちょっとその定義が分かりにくいということもあり 12% とギャップは少ないですが、Analytics(分析)にしろ Mobile(モバイル)にしろ、挙がっている領域のほとんどで設計・運用が発生するものであり、多くのスキルに受給ギャップが存在していることが伺えます。


一方で、従来の広告枠/メディアプランを販売する営業職には逆風が吹いています。

先ほどの ExchangeWire の記事では、

The emergence of programmatic media trading technologies has previously been seen as a synonym for jobs cutbacks, with direct sales roles often seen as the media trading house’s first casualties (i.e. larger teams of swashbuckling sales execs on lucrative bonus schemes, are slowly replaced by a more condensed team of IT engineers and data scientists).

(超訳)プログラマティック取引の隆盛は、人員整理と同義のように言われてきました。中でも営業という職種はメディアトレーディング企業では最初の犠牲者だと見られています。つまり、インセンティブ制度でイケイケの営業マンで溢れた大規模チームは、ゆっくりとITエンジニアとデータサイエンティストで構成された必要最小限のチームに置き換えられていくということです。

と書かれており、テクノロジーによる職業の代替という、ビジネス誌では悪夢のように語られる変化が現実となってきています。調査が行われたフランスは保守的な環境なので、営業が5年以内になくなると答えた回答者は13%に留まったそうですが、ゆっくりと縮小傾向にあることは間違いないと思われます。

ただ、これは営業という仕事の重要性が下がるという意味ではなく、職種ごとの役割の変化だと捉える方が自然ではないかと思います。運用型広告が設計や運用の巧拙で成果が大幅に変わるモデルである以上、運用者がこれまでような営業の下請け的な役割ではなく、顧客のフロントを勤めながら、アカウントマネジメントの責任を負う職種へとますますシフトしていく流れは変わりません。「運用=Operation」の中に営業的な意味も含まれてくる、ということではないかと思います。

そして、大規模な取引でのディレクションやディールメイキング、マーケティング・オートメーションと連動した営業活動など、従来からの営業の Job Description も、量から質へとますます転換が迫られると考えられます。



デジタルがもたらす企業活動の構造変化

一般的に、掲載記事に広告を掲載するパブリッシャーの収入の元は企業からの広告掲載費であり、その広告メニューを扱う広告代理店の収入は広告掲載費(媒体費)からのマージン料率で決まりますので、これまでは掲載保証型の広告メニューであれば、パブリッシャーも代理店も収益が確定していました。

一方で、既にインターネット広告の6割以上を占め、さらに最も成長率の高い分野の一つである運用型広告では、そのほとんどで品質と収益性を基準にしたセカンドプライスオークションモデルが採用されていますので、掲載およびクリック等の成果は基本的には保証されていません。そのため、広告費における運用型広告の利用比率が高まるにしたがって、広告の設計、制作、入稿、入札、分析、提案、最適化などが、プラットフォームの数だけ発生します。広告主の成果を引き上げながらなるべく掲載費と予算を近づけるために、(主に広告代理店に)運用の強い負荷がかかっていくことになります。

結果的に、運用が発生する組織には、人員の確保やトレーニング、ツールやシステムの整備など、売買を持続させるための管理コストが運用型以前よりも大幅に積み上がる構造になります。運用型広告の利益率は、従来の広告メニューよりどうしても構造的に低くなるようにできていると言えます。

媒体費を収益の源泉にしているビジネスモデルの場合、売買管理にかかる人件費等の費用は原価として認識されるため、これまでは、このコストを圧縮する目的として国内外への分業・オフショアや、運用に関わるいずれかの業務を専用システムで代替する対策(一般に「自動化」と表現される)が図られてきました。

例えば、サードパーティによる統合管理ツールであれば、入札やレポートの代替、近年のプログラマティック取引でも使われる「在庫予約型固定単価取引(Automated Guaranteed)」であれば、売買と入稿の代替だと理解できます。


参考:プログラマティックと自動取引 -媒体社の視点から- | プラットフォーム・ワン



運用型広告は、全体設計から詳細設計、運用、分析から再調整を繰り返していくプロセスの巧拙によってキャンペーンの結果が大幅に変化するため、頻繁に金融のメタファーで語られるように、運用者/分析者のスキルやコミットメントによって成果がいかようにも変わる仕事です。

単なる売買管理として運用を捉えるのであれば、これまでのように管理コストは圧縮すれば済む話です。しかしながら、運用者によって成果が大幅に変化するのであれば、運用に関わる費用は、単なるコストではなくむしろ投資として見なされるべき性質の支出であると捉えた方が、経営的には健全なはずです。


トレーディングデスク「Operative」の CEO である Lorne Brown が「広告代理店にとって、広告運用者は配信システムではなく、製品そのものである」という記事を書いたことに象徴されるように、運用型広告を扱う組織において運用者や運用業務そのものを強化することは、広告主の広告効果の維持向上のみならず、取引規模の増大やスイッチングの防止、それにともなった収益性の向上、媒体費に左右されない収益モデルの確立など、多くの企業にとって競争力の源泉となり得るのではないでしょうか。


参考:Agency Ad Ops is a Product, Not a Delivery System - Operative


それは、広告代理店のみならず、ここ数年収益モデルの変革を迫られているパブリッシャーでも状況は同じです。上述の Lorne が「パブリッシャーの売上責任者は、広告運用にこそ投資しなければいけない」と語っているように、広告在庫が正確に把握できていないことによる請求入金の機会損失や、IO(Insertion Order)の人為的ミス、オーディエンスデータ不足や運用ナレッジの不足による収益性の低下など、パブリッシャーが広告運用に投資しないことによる経営上のデメリットは、運用型広告の成長によって顕著に現れてきた問題だと言えます。


参考:Why CROs Should Invest In Ad Operations - Operative


また、広告収益の最適化だけでなく、著名なバーティカルメディアで取り入れられ始めているパブリッシャートレーディングデスクのように、広告運用に投資することで、パブリッシャーにとっても新たな収益機会が生まれる可能性があります。(もちろん、PL上の利益率は下がるので手を出したがらないメディアが多いのも事実ですが)セルサイドにとっても、広告運用は必要な概念であると認識されていくと思われます。


パブリッシャートレーディングデスク(PTD)のイメージ



投資に失敗しないために、経営者自らが学ぶ

伸びている企業ほど、広告運用をコストとして圧縮すべきものと捉えるのではなく、プロフィットセンターとして優秀な運用担当者が重用されている環境にあります。

一方で、投資には失敗がつきものです。投資すれば必ず儲かるわけではなく、資産でも「運用」という言葉が使われるように、許容できるリスクに応じて適切な投資を行い、結果を分析したり自分なりのスタイルを確立することができないと、投資が投機になり、必ずどこかで手痛いダメージを食らうことになるでしょう。

適切な投資には知識と経験が必要で、投資を判断する意思決定者の判断が狂えば、投資は失敗します。これまではキャンペーンを運用する運用者へのサラリーやトレーニングの増加というかたちの投資が一般的でしたが、組織として運用に投資する必要がある今、意思決定者である企業のリーダークラスこそ学ぶ必要があるのでは、という機運が高まっています。


IAB が2015年9月に発表した新しい研修プログラム「Digital Leadership Program」は、まさにリーダーの育成こそが健全な市場の発展に不可欠だという考え方から出てきたプログラムです。


参考:IAB Digital Leadership Program


これまで IAB は「Digital Certification Program」という資格制度を通じて現場の育成をサポートしてきましたが、このプログラムによって運用者の客観的評価が(形式的ではあっても)可能になり、スキルの証明された運用者がよりよい職場環境を求め転職してしまう、という問題があったと語っています。


That’s the statement that certification merely increases the risk of a certified employee looking for a better opportunity somewhere else; in other words, encouraging employees to earn a credential that demonstrates professional capability actually hurts the company.
参考:How Do I Retain My Best Employees? Empower Them with Leadership Skills - IABlog


実際、経営陣がデジタルの理解が浅く、その結果評価されなかったり、明らかに誤った意思決定が繰り返されるようであれば、運用者の需要が高まっている環境では、運用者はかんたんにもっとよい職場を求めて転職してしまうでしょう。IAB のこの研修は、現在のリーダーと次世代のリーダーをデジタルマーケティングという側面から育成することが、結果的に企業の発展に資するという考え方に基づいて発表されていると考えられます。


2013年11月に行われた AdOps Summit では、「広告運用に従事する社員の平均寿命は15ヶ月と言われており、勤続期間を伸ばし、退職を防ぐためには、広告運用がキャリアとして認められ出世の可能性があるという状況を作る必要がある」という警鐘が鳴らされていました。


参考:Ad Ops Summit 2013 から学ぶ広告運用に必要なこと ~ admarketech.


日本でも、業界人間ベムさんが、同じく2013年の初頭に以下のように述懐しているとおり、


最初は単にネット広告で始まったものは、デジタルマーケティングとマーケティングテクノロジーの理解という実にたいへんな勉強と実践によってでしか身につかないレベルになってしまった。

そうしたことへの理解も何もない者が経営することは全くもってナンセンスだ。
参考:世界の広告業界トップは年頭に何と言っているか。 - 業界人間ベム


経営にとってデジタルが Operation(組織運営)の成否を担うこと自体は疑いのない事実だと思います。2015年の現在では、2013年と比べてより一層、目の前に迫った経営課題となっている企業が多いのではないのでしょうか。


デジタルのマーケティング活用の最前線にいる運用者は、単なるコストとして圧縮や効率化・自動化の対象になるものではなく、むしろ最前線での実務を通じた知見によって企業の競争力の源泉になりうる存在だと思います。それが、運用型広告という分かりやすい環境が整ってきたことによって、自然と企業の経営課題になるまで前景化してきたのかもしれません。



売り手市場なのは、今だけかもしれない

現在のデジタルメディアの雇用環境は、明らかに売り手市場なのは間違いありません。ただし、雇用環境は常に流動的であり、手持ちの武器は、いつか別のものに代替されてしまうかもしれません。


参考:The Basic Digital Skills UK Report



おじさんには悲しいデータですが、Go On UK が調査したデジタルスキルに関する上記調査によると、デジタルタレントギャップは、年齢別のグループでも顕著に差が出ています。人は誰しも平等に年をとりますので、自己認識がどうであれ、デジタルの分野においては上記のように認識されていると思った方が良さそうです。

運用者に求められるスキルは、今後も多様化・専門化していくことが考えられます。年々変化が激しくなってくるこの分野で、蛍雪に耐えうるスキルというのは果たしてあるのかどうか、少し考えてみたいと思います。


デジタルマーケティングでのT型人材

いわゆる「T型人材」という言葉があります。英語では "T-shaped skills" や "T-shaped person" などと言われ、アルファベットのTの文字のタテを専門性、ヨコを視野や知見の広さに見立てた表現です。1つ以上の特定分野で深い専門性を軸に持ち(タテ)、周辺領域をはじめとして他のジャンル(ヨコ)についても幅広い知見を併せ持っている人材を指すようです。

この造語は、コンサルティング会社 IDEO の CEO である Tim Brown 氏が自著で言及したことから広まったと言われており、日本でも人事や組織デザインの文脈で、21世紀の企業に求められる人材像のひとつのモデルとして定着してきました。
※最近はパイ型(Π型)やH型とも言うらしいですが、これらの新語はどれもT型と定義がほぼ同じです。

この「T型人材」は、多様化するデジタルマーケティングにおいても適用が可能な考え方であると、Moz の創業者である Rand Fishkin は言います。 彼が2013年に提唱した「T型ウェブマーケター(The T-shaped Web Marketer)も、まさにT型人材を現代のマーケティング従事者に当てはめたモデルです。


参考:The T-Shaped Web Marketer - Rand's Blog


上図では Moz らしく SEO が例に挙げられていますが、タテに SEO の深い知識や経験を持ち、ヨコの UX や Social などをはじめとした周辺領域にも広い知見や素養を持つ、T型の SEO従事者がモデルとして提示されています。

実際、キーワード調査やコピーライティング、データの構造化や分析など、ウェブマーケティングの各領域には重複する要素が多いことからも、T型ウェブマーケターの概念は、現場を持たれている方なら納得感のあるモデルではないかと思います。



T型マーケターと組織

先述の Tim Brown の著書「デザイン思考が世界を変える」では、T型人材を採用することの効用について言及しています。


デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
「デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)」


本書では、

「スペシャリスト(I型人材)だけで構成されたチームでは、各個人が自分の専門分野の擁護者になってしまう傾向があるため、政治の優先順位が高くなり、折衝が長引いたり、中途半端な妥協に落ち着くことが多い傾向がある一方で、T型人材が集まる組織では、ヨコの知見と自身のタテの矜持によってそれぞれの専門性にリスペクトが生まれやすいため、政治に走りにくく、アイデアの共有や化学反応が起きやすい」

と指摘しています。

この指摘は、先ほどの「T型ウェブマーケター」でも同じです。T型ウェブマーケターの集まった組織は、以下の4つの意味で利点があると Rand Fiskin は主張します。


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1. 幅広さは信頼を醸成する

専門外であっても周辺知識があるメンバーは、他の専門性を持つ人のチャレンジを意味や重みを理解することができます。互いの理解や認識こそが仲間意識や信頼を生み、コンフリクトを起こさずに業務を進めることができるようになるでしょう。

2. 深さは(熟達したいという)欲求を満たす

ダニエル・ピンクが言うように、人々が仕事で幸せになるには「自治」「熟練」「目的」の3つが必要です。専門性の極めることを目指し、専門性が高いと認められることは、業務へのロイヤリティ、コミットメント、自身がこの分野を支えているというメンタリティを生み出すことにつながります。

3. 知識の重なりは創造性を生み出す

一人では創造性を発揮するのは非常に難しいことです。T型人材がそれぞれ重なりあっていれば、それぞれの専門性と共通理解が創造性を生み出し、一人では難しかった解決策やアイデアを出しやすくなります。

4. T型の仲間同士こそ支え合うことができる

サービスを発表した日に、データを分析したり誰かに説明できる人が自分しかいないとしたら、きっと最悪の気分になると思います。T型メンバーで構成された組織であれば、重要な局面でお互いに(足手まといではなく)支え合うことができます。それは、「人材の余剰」ではなく、「本質的な冗長性」です。

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これらの指摘は、組織が広告代理店であってもインハウスであっても、ある程度人数が増え大きくなった集団には共通して通用する考え方ではないかと思います。マーケティングにおけるデジタル比率が上がるにつれ、マーケティング従事者が一人でカバーする範囲はどうしても広くなりがちなため、関連部門や専門家との連携はますます重要になります。そして、その連携の巧拙が継続性と品質を生み、PDCAを現実的なものにします。


1つの領域を深く潜っていくと、接続される周辺領域に習熟する必要が出てきますし、その周辺領域も、元々の領域に適切な専門性があれば、まったくの素人の時よりも類推が働き、大きな間違いが少なくなります。専門性デジタルに身を置く以上、マーケターはT型である必要があると言えるのかもしれません。




「何でも屋」は、何からでも始めやすい

トレーディングデスクを提供する Operative の CEO である Lorne Brown は、2年前の2013年11月に開催された Ad Operations Summit で以下のように語っています。


The ad operations role has evolved tremendously. Simply among those who took part in the session, we generated a list of 20 responsibilities that now fall onto ad ops. It’s no longer just about doing QA, inventory management, trafficking, reporting and, campaign management. Ad ops now has direct responsibility for technology, vendor management, creative and developers, yield management, programmatic, block lists and change management around new sales structures, ad technology and processes.

広告運用という役割は途方もない発展を遂げました。我々は広告運用者に振りかかる20もの職責をまとめたリストを作れます。広告運用はもはやQA(品質保証)、在庫管理、広告取引、レポートやキャンペーンマネジメントだけに留まらず、テクノロジー、ベンダーマネジメント、クリエイティブや開発、イールドマネジメント、プログラマティック、ブロックリストや営業の組織編成、プロセス管理などあらゆる分野に直接的な責任を負っています。
参考:Ad Ops Summit 2013 から学ぶ広告運用に必要なこと ~ admarketech.


この発言からも示唆されるように、広告運用者は既に「広告」の範囲を越え、関係するすべての役割の「運用」を期待されています。実際、運用型広告の重要性が高い現場では、顧客の実質的なインターフェースを運用者が務めたり、システムの管理やベンダーとのやり取りは現場にいる運用者でないと適切に実務が回せない、というケースが多いように思います。


このような傾向は年々拍車がかかり、求人サイトには「スーパーマンか!」とツッコミを入れたくなるような募集要項がたくさん並ぶわけですが、残念ながらその募集要項をクリアできるような人は稀ですし、どんな人でも始めは専門領域以外は初心者であることは変わりありません。


私が好きな記事の一つに、Ad Ops Insider の「広告運用者として働く8つの理由」という記事があります。広告運用者は「専門性の高い何でも屋」ですが、そこへの第一歩は、実はとてもかんたんなことなんだと思うことができます。


リンク:Top 8 Reasons to Work in Ad Operations | Ad Ops Insider


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1.デジタルマーケティングを学ぶのに最良の場所である

There’s no better place to learn about digital advertising.

2.広告運用はチャレンジングで、能力に関わらず、成長せざるを得ない

Ad Ops is challenging – no matter what your skill set, it forces you to develop lots of new ones.

3.広告運用はデジタル広告に関わるすべての職業への理想的な入口である

Ad Ops is the ideal platform for just about any job in digital advertising.

4.安定した雇用があり、初心者にとって最も働きはじめやすい場所の一つ

Major job security – virtually everyone is hiring and there aren’t nearly enough qualified people.

5.広告運用はデジタルメディア企業にとって重要性が増している

As a strategic team, Ad Ops is only getting more important within digital media companies.

6.業界自体が早いペースで多様化し、広告運用的な仕事が必要な領域へ拡大している

The industry is growing at an incredible pace and diversifying into new areas that all need Ad Ops leaders.

7.広告運用には、互いに協力できるコミュニティが存在する

Ad Ops has a great community built on cooperation.

8.何より、面白い!

It’s Fun!

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好きこそものの上手なれではないですが、この8番目の項目のように、楽しめる環境と対象があることに気付けることが、T型の縦のスキルを深め、横の幅を広げていくための一番重要な要素なのかもしれません。



The major difference in digital is that you get to sit on the leading edge of innovation; you get to be part of the real-time invention of an industry, and work for exciting companies that are changing the world. Could there be anything more fun?

デジタルが他の業界と大きく違うのは、イノベーションの先端に腰掛けることができるってことなんだ。産業がリアルタイムで生まれる場に参加して、世界を変えるようなエキサイティングな会社に勤められる、これ以上面白いことがあるかい?

Top 8 Reasons to Work in Ad Operations | Ad Ops Insider


広告運用に真剣に従事する企業、個人に輝かしい未来が待っていますように!



2015年9月3日木曜日

CCCMのカギは、データ連携、自動化、マルチチャネル。 −ディレクタス 荒木慎二氏:State of AdOps vol.19


「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。

※過去の記事はこちらから。

第19回目は、EメールマーケティングやCCCM(クロスチャネル・キャンペーンマネジメント)コンサルティングを行う株式会社ディレクタスで、様々なプロジェクトの導入を支援してきた荒木慎二(あらきしんじ)さんにご登場頂きます。

ダイレクトメールの時代からOne-to-Oneマーケティングをリードしてきたディレクタスの現場で活躍されている荒木さんに、マーケティングキャンペーン「運用」の現在についてお伺いしました。


# インタビューは 2015年8月に行われました。



インターネットの普及と一緒に成長させてもらった


●まずは荒木さんのこれまでの経歴から教えていただけますか。

株式会社ディレクタスの荒木です。ディレクタスは2社目で、前職からずっとEメールマーケティングの仕事をしています。最初の会社は15年ほど前、ちょうどネットバブルがはじけた後くらいに入社しています。それまでは大学院の博士課程3年だったので、そろそろ働かないと、というタイミングで拾ってもらった感じですね。

前職では3年ほど勤め、当時はまだ社員が10人以下だったディレクタスから誘いを受けて入社しました。入社して10年以上経ち、現在は40人ほどの規模までになりました。インターネットの普及と一緒に成長させてもらったと感じています。


●では、最初にご縁のあった会社がきっかけになって、その後15年間、Eメールマーケティングのお仕事に従事されているんですね。

はい、大学院ではEメールとはまったく違う、地理やお遍路に関する研究をしていたので(笑)。


●えっ、お遍路!それはちなみに…(10分ほどお遍路トーク) …すみません。では話を戻して、ディレクタスでは、具体的にどのようなお仕事をされているんでしょうか。

現在一番多いのは、クロスチャネル・キャンペーンマネジメント(以下:CCCM)の導入です。私はマーケティングテクノロジーグループという部署とソリューショングループという2つの部署を兼務しているのですが、マーケティングテクノロジーグループがCCCMの導入を行い、ソリューショングループがEメールマーケティングの運用を行っています。

運用については、Eメールの配信の設定、配信リストの作成、A/Bテスト実施時の設定、その結果の分析を行っています。その他には、顧客分析や顧客満足度に関するアンケートを行ったりもしますね。


データ連携、自動化、マルチチャネル。


●CCCMについて改めてご説明いただいてもよいでしょうか?

CCCMは、特にBtoCの分野におけるマーケティングオートメーションの仕組みのことを指します。詳しくは以下のURLなどをご参考頂きたいのですが、よく引き合いに出されるのが、既存のEメール配信システムとの違いです。


参考:CCCMとは何か ~One-to-Oneマーケティングを実現するCCCM | 『BtoC向けマーケティングオートメーション CCCM入門』 Web担特別公開版 | Web担当者Forum

参考:著者インタビュー:『BtoC向けマーケティングオートメーション CCCM入門』 岡本泰治氏、橋野学氏 | Unyoo.jp




既存のEメール配信システムとの違いは、大きく分けて3点あると思います。1つ目は、データ連携の自由度。クロスチャネルと言うくらいなので、連携に価値があると言ってもいいと思います。

そして2つ目は、自動化です。データ連携においての自動化もあれば、コンテンツ生成やパーソナライズという意味での自動化もあります。3つ目は、マルチチャネルへの対応への柔軟性が、今までのEメール配信システムと大きく差があると思っています。特に、データや他のツールを連携させる部分が、価値であると同時に難しさでもあり、導入の肝になると思っています。


●データ連携の難しさというのは、例えば、AのツールとBのツール、それぞれが持つデータ構造が全然違ったり、そもそも元データが整っていなかったり、ということですか?

はい、そういうことですね。よくある話なんですが、「キー項目がない」というような事態です。例えば、基幹のデータはこういう体系で作られているんだけれど、Webから取り込むデータは別のIDがCookieに割り振られていて、両者がくっつかない、というようなことです。

広告であれば、仮にそういうことが起きても、データベースではなくCookieのIDをプライマリキーに変えたりできますが、基幹のデータベースは少なくともEメールアドレスが必要だったりと、紐付けるときにハードルが極端に上がることがありますね。


●では逆に言えば、データ連携がある程度できてしまえば、プロジェクトの何割かはできたようなもの、という感じなんでしょうか。

うーん、最終的には形にはなりますが、ツールの連携に価値があるということは、ある機能はこのツールで、別の機能はあのツールで、というように、妙にツールやそれに紐づくプレーヤーが増えてきやすい構造ですので、その交通整理がかなり重要で、大変だったりもします。


●なるほど、ありがとうございます。先ほど仰っていた自動化の部分もお聞きしたいんですが、︎CCCMはデータ連携の自由度があるからこそ、その部分の自動化はある程度必須要件だと思いますが、コンテンツの自動化についてはいかがでしょう?メールへ商品の動的挿入みたいなイメージが一般的ですが、すでに色んなイノベーションがあるのでしょうか。

CCCMをやっていて、「こんなことをするんだな」と思うことがあります。通常レコメンデーションとの連携において、普通の配信システムのツールだと、データを一度データベースに格納した上で、個別に差し込んでから送るのが一般的です。でもそうではなく、配信する際に外部のAPIを叩いてレコメンドデータを取得し、1通ごとに差し込みながら送る、といったことをしているんです。


●それだとトランザクションがものすごく増えないですか?

はい、増えるので、日本の配信システムではあまりやらないんですよね。日本の配信システムは「大量に確実に送る」ことに重きを置いているものが多いので。1時間に何万通と送ることが目的の場合はやりませんが、CCCMではそういった個別送信をスクリプトなどで組めて送れるんですよ。


●本数の少ない︎BtoBであれば可能なのかなと思うのですが、データ量の多いBtoCでもできるんですか?

それができるのがCCCMなんです。例えばユーザーがカートを放棄していて、放棄している商品に紐付く商品のレコメンドを、レコメンドツールから引っ張ってきて送る、といったことですね。コンテンツも、特定のデータを呼び出す小さいプログラムのようなものを書いて生成することができます。

例えば、カートを放棄した商品コードを格納するテーブルを作り、あるユーザーが放棄したカートに3つの商品が入っていたとしたら、メール配信をするときにその3つのデータを商品マスターから都度参照して、コンテンツを生成させて送ります。普通だと、1回データをすべて成形した状態にしてから差し込むだけのことが多いんですが、配信時にリアルタイムにそれを生成します。




オフラインとCCCMの連携も加速


●ありがとうございます。CCCMの言葉に入っている、マルチチャネル・クロスチャネルについても教えていただけますか。

これからチャネルはますます増えてくるのではないかと思います。データ同士を連携させるところのハードルをクリアできれば、あとはアウトプットするだけですので。日本の場合は海外と違ってショートメッセージ(SMS)なんかは制約があり、なかなかできなかったりするのですが、たぶん増えてくると思いますね。


●マルチチャネルというのは、メールのみならずさまざまな顧客データやマルチデバイスのことを指していますか?

そうですね。この後おそらく増えてくるのはスマートフォンのアプリで、Webへの出力や、広告や位置情報と連携するような事例も出てくるのではないでしょうか。

我々も最近では salesforce marketing cloud とビーコンを連携するしくみを作りました。例えば、ゴルフ売り場に行って初心者用のクラブセットを初めて買った、という購買履歴があれば、その人がお店に来たら、無料初級レッスンが受けられますという案内を出す、というものを実際に作って連携させました。お客さんの顧客体験をよくするために、新しく繋ぐものを我々で考えてシミュレーションを提供することも行っています。





●プッシュの精度を上げるために、ますますデータ連携の重要性が増してくるということですね。

はい。スマートフォンのアプリやSMSは、シンプルなプッシュ通知機能ですので、仕組みが作れれば比較的うまく行きやすいのではないかと思います。

あとは、オフラインチャネルとの連携も今後ますます増えてくると思います。DMでは、すでにデータを流し込んでオンデマンド印刷している例もあります。電話、コールセンター、店頭など、そういうものも絡んでくるとデータの種類も違いますので、運用に乗せるのは大変ですが今後需要が増えてくるのではないかと思っています。


設計と運用の重要性


●ここまでのお話で、かなり大変な世界なのが分かってきました・・・(笑)。技術面や環境面ではどんなところに課題を感じますか。

繰り返しになりますが、導入時のデータ連携はハードルが高いと思います。その他には、お客さまが導入した後、どういう運用体制でやっていくかが重要だと思いますね。必ずしも自動化したから楽になるわけではなく、いろいろできる分もっと大変になることも想定して体制を作っておかないと、次の施策を行うことができず、あまり価値が出せないことになります。

あとは、最初から複雑なことをやりたいというお客さまもいらっしゃるのですが、初めから無理をすると、後々ひずみが出てくることが多いです。初期の実行時はなるべくスモールスタートにして、かつ徐々にスピード感を持って変えていく体制を持った方がいいと思いますね。


●CCCM導入の具体的な仕事の流れを知りたいのですが。

詳細資料はお見せできないのですが、例えば人材系の会社であれば、募集企業に対しては「こういう人が見ています」という情報を、求職者に対しては「こういう募集が出ました」という情報を自動化するために、まずシナリオをたくさん作るんですね。


●そういう場合は、重要度別に考えられるケースを網羅していく感じなんでしょうか。

最初にカスタマージャーニーのようなものをずらっと作り、それを場面ごとに切り分けて個別のシナリオに落とし込むと、たくさんのシナリオができます。すべてのシナリオを実施するのは現実的ではないので、結果的にその中のいくつかに絞ってやりましょうという感じになります。連携させるデータが多いと自然とシナリオも増えるので、理論値は膨大な量になってしまいますので。


●カスタマージャーニーって、仮説ベースですか?それともデータに基づいて設計するのでしょうか?

データに合わせて運用で修正をしていくことになりますが、初期はその元になるデータがないので、設計は仮説に基づいて行うことが多いです。

ただ、理想的なシナリオを実施するために連携させるデータを増やしていくと、パターンだけでとんでもない量になります。結局は、広げすぎるとうまくいかないので、仮説の精度を挙げるためにも、現実的なシナリオに落としこんでいくプロセスが大事ですね。


●なるほど。やりたいことを広げようとすると運用が困難になっていくし、ある程度のところまではそんなにコストがかからないけれど、そこから先にいろいろ網羅しようとすると、突然コストが上がる、みたいなイメージでしょうか。

そうですね。あとは、利用するツールの特性と合わせることも大事です。ツールとやりたいことの相性が悪いと、実現の難易度が上がります。お客さま側で「このツールにする」と決めていらっしゃる場合などは、そのツールに合わせてできることとできないことをちゃんと説明するようにしていますね。ベンダー側は基本的に自社に都合の悪いことは言わないですから(笑)、あとでクライアントが困らないように中立的に説明するように心がけています。


●ツールの特性とやりたいことを合わせる設計が何より大事なんですね。CCCMの運用では、A/Bテストやデータベースの更新連携、結果を分析して次の設計に生かすといったことを行いますよね、これは広告運用と非常に似ていると思いました。

構造としては非常に近いと思います。違う点を挙げるとすれば、広告運用よりもサイクルが長いことではないかと思います。リスティング広告であれば母数が多い場合1日で結果が分かったりすると思うのですが、メールは基本的にユーザーに1日1本送って、頻度や内容を変えていろいろと試しながら進めていくので、少なくとも1−2週間は実際に回してみないと差が見えにくいです。

また、変更を加えようとすると、間違いがないようにテスト配信をしてから切り替えなければなりませんので、リスティング広告のような設定の気軽さがありません。そういった意味ではスピード感が違うのかなと思います。また「変える」ということに対しての負荷も違いますしね。


●続いて、テクノロジーやセキュリティについてはいかがでしょうか。技術の進化や、ツール事態の変遷も早いので、キャッチアップが大変などといった課題はありますか?

大手ITベンダー各社が提供するマーケティングクラウドのようなプラットフォームは製品アップデートが毎月のようにあり、キャッチアップは大変ですね。あとは、外資系のサービスが多いので、日本側に情報がどうしても少ないという事情もあります。

セキュリティは、やはり個人情報を扱うことになるので、データの扱いは厳密です。企業によっては情報セキュリティ委員会を設けてチェックシートでしっかり管理するところもあります。弊社は元々メールマーケティングを行ってきているので、Pマークも取得しており、社内に檻のようなセキュリティルームを設けてそこで管理しています。



ロジカルに考えられること。


●ありがとうございます。最後に、これからのCCCMの変化について、荒木さんのご意見をお聞かせ下さい。

クロスチャネルコミュニケーションが、夢物語から現実になるのではないかと思います。そうするとよりCCCMの導入業務は大変になると思いますが(笑)

ツールは流行り廃りがありますが、結局やっていることはCRMの頃からあまり変わらないと思うんですよね。関わっている我々は、「何のためにやるのか」から目を逸らさずにいるべきだと思います。マーケティングでもテクノロジーでも原理原則を理解することが大事ですから。


●広告運用でもまったく同じですので、非常に共感します。CCCMに関わる人にはどういう経験や素養が必要だと思われますか。

そうですね…、例えばベン図が書けて整理ができる、というのはデータを見る上で必要な素養ではあります。つまり、ロジカルに考えられること、でしょうか。弊社ではそんな方と一緒に働きたいと思っておりますので、興味がありましたらぜひ(笑)。

●本日は貴重なお話、ありがとうございました!


リンク:採用情報│株式会社ディレクタス




2015年7月29日水曜日

IABの最新版プログラマティック広告レポートを読み込んでみる



プログラマティックに関する初めての専門レポート


2015年7月21日、米IAB(Interactive Advertising Bureau)はPwCと共同で、「IAB Programmatic Revenue Report」を発表しました。このレポートは、IABが定期的に出しているインターネット広告関連の調査のうち、「プログラマティック」と呼ばれる、バナーや動画などのここ数年で大きく取引量を伸ばしているディスプレイ広告の自動取引だけを切り出した初めてのまとまった資料になります。


リリース:
U.S. Programmatic Display Ad Revenues Totaled $10.1 Billion in 2014, According to First-Ever IAB Programmatic Revenue Report

ダウンロード(PDF):
http://www.iab.net/media/file/PwC_IAB_Programmatic_Study.pdf

※ちなみに検索連動型広告は十数年前からプログラマティック取引ですが、このレポートでは「Non-search internet / mobile ads」として、ディスプレイ広告のみにフォーカスしています


ここ数年でディスプレイ広告のプログラマティック取引は大きく成長しており、広告を出稿する広告主や代理店(Buy-side)と、広告枠を持つメディア(Sell-side)のプログラマティック取引への取り組みは年々急拡大しているものの、プレミアム在庫の少なさ(特に動画)や、Viewablity や Fraud などで語られる透明性の欠如が、ある意味その成長痛として指摘されていることも事実です。

このレポートは、2015年7月時点で、2014年末までのプログラマティックディスプレイ広告の状況を紐解いた資料として貴重です。以下で、資料の中で重要な部分を切り出して読み込んでみたいと思います。


3つのハイライト


2014年通年の米国プログラマティックディスプレイ広告費は101億ドル(約1兆2100億円)にのぼり、純広告なども含むディスプレイ広告全体の52%となり、米国ネット広告費全体でも20%を占めることになるようです。(ネット広告費全体は495億ドル:約5兆9400億円)※為替レートは1ドル120円として計算

"Programmatic revenues totaled $10.1 billion in 2014 comprising approximately 20% of total internet advertising revenues ($49.5 billion)1, inclusive of mobile and comprised a majority of display related revenues.
Programmatic revenues made up approximately 52% of display related advertising ($19.6 billion) in 20141, while non-programmatic display related revenues comprised the remaining 48%."

既に日本円で1兆円市場となっているプログラマティックディスプレイ市場ですが、そのほかにも以下の3つのハイライトが提示されています。

(1)取引形態:70%はオープンオークション制だったものの、今後は他の取引形態にシフトしていく可能性が高い

(2)フォーマット別:バナーが全体の8割を占めたものの、モバイルの伸長に伴って動画などの利用率が上がっている

(3)広告費のレベニューシェア(売上配分):広告枠を持つメディアが45%、プラットフォーマー等のアドテク企業が55%



(1)取引形態:

近年「オープンオークションからプライベートオークションへ」と呼ばれるプライベート化の機運が高まってきていますが、それを裏付けるように、現時点では狭義の RTB であるオープンオークションが70%を占めるものの、今後はプライベートオークション(招待制)やプリファードディール(余剰在庫の固定取引)、プログラマティックプレミアム(限りなく純広に近いRTB)の比率が増えていく傾向であると予測されています。


オープンオークションは洋の東西を問わず以前より広告在庫の品質が問題視されており、それが Ad Fraud(広告詐欺)やViewability(広告の視認性)の問題と結びつき、大手のブランドの出稿を妨げていた要因だと言われていました。その解決策として、ブランド広告主とプレミアムメディアの利害が一致した広告取引のプライベート化が、業界全体のチャレンジだとみなされているようです。


(2)フォーマット別:

従来型のバナー広告が全フォーマットの8割を占めたものの、モバイルの伸長に伴って、動画などの比較的新しいフォーマットへ徐々にシフトしていくだろうと予想されています。Googleは決算発表で YouTube の伸長に必ず言及していますし、Facebookなどのソーシャルメディアも動画への投資を強烈に進めていますので、この流れには納得感がありますね。

"Display banner ads made up approximately 80% of programmatic revenues in 2014, but we expect more advertisers and publishers will shift their budgets and inventory toward mobile and video formats over time."


(3)広告費のレベニューシェア(売上配分):

広告費全体を100とした場合に、広告枠を持つメディア(Publisher)が45、プラットフォーマー等のアドテク企業(Ad Tech)が55という比率になっているようです。


ここで言うアドテク企業とは、広告配信のプラットフォームである DSP(Demand Side Platform)、広告配信や運用を行う機能であるトレーディングデスク(Agency / Trading Desks)、広告枠を束ねたアドネットワーク(Ad Network)、ターゲティングデータを提供する狭義の DMP(Data Management Platform)、広告配信をメディア側で制御してマネタイズするSSP(Supply Side Platform) などを指します。

メディアの売上配分の比率はプログラマティック広告の収益を語るときに欠かせない論点です。45:55という比率は、例えば広告主が CPM として200円払っていたとしてもメディアの RPM は100円を切るということになりますので、広告枠をつくり出すメディアの取り分が半分にも満たないことが、結果的にメディアがプログラマティック対応に消極的になりがちな要因だと言われています。

なお、プログラマティック枠の代表格である GDN(Google Display Network)は、メディア側から見ると Google AdSense という名称になりますが、この Google AdSense は以前より収益分配率を公開しており、広告費の 68% がメディア側に還元されています。中間プレイヤーを選択/圧縮しながらターゲティングの精度やメニューの拡充を図っていくかが、メディアの広告収益を考える上で重要な考え方だと言えるでしょう。


ディスプレイ広告のエコシステムと用語の解説


このレポートは、プログラマティック広告の現状調査という意味でも充分に価値がありますが、「プログラマティック」という文脈で語られるディスプレイ広告のエコシステムや、分かりにくい専門用語をしっかり定義付けしているという意味で、網羅性の高い資料だと言えます。

以下の図は、RTBの解説をするときには必ず出てくる関係図(一般的にはヨコで示されることが多い)ですが、非常に簡潔に図式化されています。


そして、上記の中でそれぞれ示されている「DSPs」や「Ad Exchanges」といった各プレイヤーの定義を、2ページにわたって解説しています。

例えば、この図の中で日本でなじみの薄い用語は「ATDs」ですが、これは Trading Desks / Agency Trading Desks(エージェンシートレーディングデスク)の略で、以下のように説明されています。


Trading Desks / Agency Trading Desks (ATDs)
"Trading desks, known for their programmatic trading expertise, play the day-to-day campaign management role. These trading entities can be independent or operate within an agency holding company.
ATDs are the trading arm (or trading entity) of agencies or holding companies. During 2014 this was the most common form of trading desks. ATDs, while leveraging their buying technology, can purchase programmatic digital inventory on ad networks, ad exchanges and SSPs. ATDs often charge a percentage of media spend averaging 5- 15%."
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トレーディングデスク / エージェンシートレーディングデスク(ATDs)
トレーディングデスクは、プログラマティックな取引に専門性を持ち、日々のキャンペーンマネジメントを担う役割として知られる。これらのトレーディング部門は、独立系もしくは広告代理店グループの一部として運営されている。
エージェンシートレーディングデスクは、広告代理店やそのグループのトレーディング部門のことで、2014年においてトレーディングデスクのもっとも一般的な形式である。エージェンシートレーディングデスクは、自らの購買技術を駆使して、アドネットワークやアドエクスチェンジ、SSPにあるデジタル広告在庫を買い付ける役割を担う。メディア費の5%〜15%程度を請求することが平均的。

この定義を読むと、ATD は別に特別な機関というわけではなく、日本で言えば単純に広告代理店内の運用部門を指すことが分かります。

「広告代理店」と一口に言っても、総合広告代理店やネット専業広告代理店など、得意分野や成り立ちに合わせて呼び名も得意分野も様々あります。また、ネット専業の中でも運用型に特化した部門ばかりがあるわけではないので、代理店内のトレーディング/運用部門を正確に表現するためにこの用語を使っていることが分かりますね。
 

クリックして拡大

上記の図のような、「ユーザーがメディアのURLをクリック/タップしてから実際に広告が配信されるまでの1秒未満で何が起こっているか」を示したチャートもあり、プログラマティック広告の辞書的な意味で非常に有用な説明がふんだんに盛り込まれています。


多様化する取引形態にも言及


オークションのプライベート化が進みつつある現状に合わせ、IABが2013年から定義しているオークションの取引形態の分類も改めて紹介されています。

クリックして拡大


上記の分類はこの資料でも詳述されていますが、IABと協働しているDAC/プラットフォーム・ワン社のサイトで日本語で詳細に解説されていますので、ぜひご覧ください。

リンク:プログラマティックと自動取引 -媒体社の視点から- | プラットフォーム・ワン


プログラマティック広告の今後


レポートの後半では、デバイスの多様化が進むにつれて、「モバイル」と「動画」のプログラマティック取引の重要性と課題に触れられています。

モバイルの成長は疑いの余地がなく、既にメインデバイスになっている現実がありますが、その現実にプロダクトが追いつくために、モバイルアプリへの広告配信や、デバイスを跨いでいるユーザーに対して広告配信を最適化するためのクロスデバイスターゲティングが今後の課題であると結論付けています。

動画も非常に注目を集めているフォーマットですが、アメリカでは特に動画のプレミアム在庫が不足していることが指摘されています。日本より動画のプレイヤーの選択肢が多いはずの海外でも動画在庫の枯渇は問題視されていますので、Facebook等のソーシャルの台頭もあり、動画の広告在庫をどのように確保すべきかは日本を含む他の国でも重要な問題になるのは間違いありません。

今後のプログラマティック広告が引き続き広告のスタンダードとして受け入れてもらうために必要な変化をまとめたものがリスト化されています。

1. プログラマティックをめぐる環境の標準化
 →複雑すぎる環境を整え、定義を明確にすることで、混乱を最小限に抑制。

2.信用度の向上
 →ビューアビリティや広告詐欺などにしっかり対応し、広告出稿側の信頼向上。

3.プレミアム広告在庫の増加
 →動画を中心に枯渇するプレミアム広告在庫への対策。取引のプライベート化。

4.クロスデバイスターゲティングの進化
 →モバイルに合わせたクロスデバイスの強化とプライバシーの両立。

5.品質向上とプログラマティック取引の価値向上
 →プログラマティックを通じた広告在庫の販売の向上と認知。

6.メディア側の運用の向上
 →広告枠をプログラマティック取引化することによる運用の概念の変化。

7.エコシステムの安定化
 →様々な課題に対応し、ネット広告のレベニュードライバーとしての地位を確保。


レポートはこちらからダウンロード(PDF)できます。22ページと短いレポートですが、プログラマティック広告の入門資料としてまたとない良質なドキュメントですので、ぜひご確認下さい!
 



2015年7月2日木曜日

運用型広告は、「導入」と「分析」で決まる。–オーリーズ 川田昌光氏:State of AdOps vol.18


「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。

※過去の記事はこちらから。

第18回目は、運用型広告のコンサルティングで新進気鋭の企業、株式会社オーリーズでコンサルタントとして活躍されている、川田昌光(かわだまさみつ)さんにご登場頂きます。

テクノロジーを真ん中に置いて運用型広告のキャンペーンを展開しているオーリーズで活躍する川田さんに、運用型広告の最前線についてお伺いしました。

# インタビューは 2015年5月に行われました。


ROI やROASは、ユーザーの満足度にも繋がる指標


●まずは、川田さんが現在のお仕事に就かれるまでの経緯と具体的な業務内容を教えて下さい。


株式会社オーリーズの川田と申します。オーリーズは、いわゆる「運用代行業」と呼ばれるような特定チャネルに限定した代理業や画一的なレポーティングではなく、お客様の根本的な課題を整理して解決策を提供する、運用型広告のコンサルティング会社です。

オーリーズには大学3年生の時にインターンとして参加し、2014年に正式に入社しました。最初は広告というものを全く知らず、単純につり革広告のように不特定多数の人に見せるものだと思っていましたが、運用型広告に携わることになってから、配信の仕組みや背景を知り、自分も配信する側に回ってみたい、この分野でもっと面白いことができるんじゃないかと、可能性を感じて社員として登用してもらいました。


●まだお若いんですね。数あるインターン候補から、オーリーズへはどうやって辿り着いたのでしょうか。

自分で何か事を成したかったというか、これまで自分で何かをやってきたという確かな自信がなかったので、だったらこれから作り上げていくしかないなと思い、就職時には本気になって取り組んでみようと決意しました。

なるべく新しい分野の方がチャンスが多く、身につく力が大きいのではないかと思ってインターン先はベンチャーに絞りました。一般的なインターンは仰々しいというか、あくまで学生インターン用に作られている仕組みでしかないところが多かったので、大学が紹介するようなインターン募集は避けて、本当の就業体験ができそうなところを探しました。オーリーズは、探していたらたまたま行き当たった感じです。

社長の鈴木と話をして、自分の何となくやりたいことを感じ取ってくれたというか、ここで勉強すればいいと言ってくれたんですね。迷っている時間ももったいないと思ったので、インターンとして働くことを決め、そのまま就職しました。現在は新規営業とお客様への広告運用を担当しています。


●川田さんにとってこの仕事の面白さや課題は何ですか?

自分がこの仕事の面白さを感じる瞬間は、どういう人がその商品を買うかを想定して、「こういうタイミングで、このデバイスから広告に触れるんじゃないか」といった一連の流れを考え、そこでクリックされる広告は何なのかと追求しているときです。

広告の仕組みは技術的にもどんどん発達していて、ユーザーに最適な広告が提供できるようになってきていますが、世の中的には広告はまだまだ嫌われているなと感じることが多々あります。その理由を考えてみると、自分も含めてですが、配信する側が広告の機能を活かしきれていないからではないかと考えています。

広告を出すということはユーザーとの出会う機会を作ることだと思っています。広告がクリックされるということは、「ユーザーがその広告を好ましいと思った」と言い換えてもいいかもしれません。

そう考えると、ROI や ROAS という数値は、単なるデータではなく、ユーザーの満足度に繋がる指標だと捉え直すこともできると思います。

それをもっと高めるために、どうすれば効果が最大化するのかを突き詰めて考えると、結局は「ユーザーがどう考えてどういう経路を辿ってこの商品にたどり着くのか」を考えることなのかなと。

もちろん、現在の広告の機能で出来ることと出来ないことがありますが、アイデアを実現できる新しい機能は、いち早くキャッチアップしてお客さまに届けていきたいと思っています。

その面白さを知るために、新しい情報をどれだけキャッチアップして自分の血肉とできるかが、今の課題です。



延々とキーワードを追加するような運用は減っていく


●ありがとうございます。では、今のお仕事で、先ほど仰られたような新しい機能を使った事例がありましたら教えて下さい。

オンラインの家具専門店のお客さまの事例をご紹介できればと思います。元々インハウスで広告運用をされていたのですが、「検索連動型広告でもっとできることがあるのではないか」「インハウスだけでは出ない新しいアイデアや伸びしろを知りたい」というご要望でお手伝いすることになりました。

ご担当者は、在庫管理など他の業務も兼任で行っていらっしゃったため、最適化のために分析やヒアリングをさせて頂いたところ、リスティング広告の費用対効果や損益分岐点が正確に把握できる状況にはなっていませんでした。

そのため、やみくもに改善案をご提案するのではなく、まず、行っている施策の費用対効果を1つ1つ洗い直し、その上で運用型広告を行う上で定量的に把握できる目標の設定を行いました。


●具体的にはどのように進めていったのでしょうか。

目標設定のために利用したのは、もともとお客さまが使っていらっしゃった効果測定ツール(アドエビス)とアクセス解析ツール(Google Analytics)です。広告の効果測定ツールとアクセス解析ツールで検索連動型広告の重要なキーワードのコンバージョン貢献度を洗い出すことで、その時点のアカウント構成において適切な予算配分を算出しました。

たとえば、社名やサイト名のようなブランドキーワードと「家具 通販」のようなゼネラルキーワード(ビッグワード)があるとします。一般的にはビッグワードの CPA は低くないですよね。

そのお客さまは「ビッグワードはラストクリックでの CPA は悪いけれど、それはラストクリックベースで判断しているからで、おそらくブランド検索に貢献しているはずだ」と想定してずっと掲載を続けていたのですが、効果測定とアクセス解析を併用して分析してみたところ、実際にはビッグワードはブランド検索へあまり影響を与えていなかったことが判明しました。

そのため、初期の施策では、この予算の無駄を削ぎ落としていくことで、最小限の設計だった場合の CPA や利益率を算出しました。結果、最初の1ヶ月でかなりの予算が削減できたので、その浮いた分のご予算を別のところに使おうということで、単純なゼネラルキーワード以外の施策をトライして頂きました。


●面白いですね。可能な範囲で、施策の詳細や順序を教えて下さい。

まず行ったことは、データフィードの整理です。Criteo でも商品リスト広告(PLA)でも、データフィードをしっかり構築することが重要ですので、まずはこれに取り組みました。商品点数がマニュアル対応では厳しい量でしたので、フィードマネジメントサービス(コマースリンク)を利用しました。

最初は AdWords と同じアカウントですぐに始められる商品リスト広告(PLA)からスタートしましたが、すぐに効果が上がりました。

その後、日々増減する商品に対応するため動的検索広告(DSA)を活用したり、動的レコメンドバナーである Criteo を利用するなど改善を進めることで、お取引が始まってから5ヶ月間で約800万円の売上が約1300万円になり、問い合わせ経由の売上も含めると、同じ広告費で売上が約2倍となりました。




●素晴らしいですね。同じ予算でも内訳がずいぶん変化したのではないでしょうか。

仰るとおりです。この図を見て頂きたいのですが、各月のご利用金額を100とした場合のご予算の内訳です。最初は Google、Yahoo! それぞれの検索連動型広告と、リマーケティングを少し、というご予算配分ですが、5ヶ月後には単純な検索連動型広告以外の割合がかなり増えています。




内訳も、商品リスト広告や動的リマーケティング、Criteo などデータフィード関連広告の割合が大きく、動的検索広告のような自動化も一定の割合になっています。

予算配分の変化に伴って、これまでのように延々とキーワードを追加していくような広告運用は減りました。

初期の1−2ヶ月で運用するキーワード数は減らしているため、キーワードマネジメントよりもデータフィードの設計や調整、サイト内を分析して動的検索広告のキャンペーン設定をしたりと、施策も分析の範囲も変化しています。




●様々な施策を組み合わせることで、運用が変化し、結果的にコスト効率がよくなってさらに売上が上がったという理想的な事例のように見えますが、初めからこういうストーリーが描けていたのでしょうか。

もちろんです!と言いたいところですが、思考錯誤の結果です(笑)。

日々勉強していく過程で「検索連動型広告だけが最適な解決策ではない」というのは何となく感じていましたので、お客さまと一緒に模索しながら辿り着いた結果だと思っています。


●参考にできる他社の事例なども決して多くはないですよね。

とにかく新しいニュースを読んで咀嚼することを心がけました。英語は得意ではないのですが、それこそ Unyoo.jp で紹介されている元の英語記事を読んでいるうちに「自分達でもできるはず」と思えるようになりましたし、既に第一線で活躍されているアナグラムさんのブログ、分析であれば小川卓さんのブログなども読み込みました。

このオンライン家具店さまのご支援をする中で、今までコラムや記事を読んでいて「すごいなあ」と思っていたことが現実に「自分たちでもできる」と確信に変わり、オーリーズは高い品質で運用型広告をご提供できる会社だと、言い切れるような自信がついてきたと思います。



成果は、「導入」と「分析」で決まる


●ありがとうございます。この事例を通じての学びや、会社として心掛けている姿勢などはありますか。

自分たちのやっていることが間違っていないと確信できたのは、この事例でも「導入」と「分析」が重要だと再認識できたことだと思います。

実は、弊社では運用型広告の一連の作業を「導入」「運用」「計測」「分析」の4段階に分けています。

「導入」は、1つ1つのテクノロジーを理解して最適なものを選んで稼働させること。「運用」は、テクノロジーの中で人が動かせるレバーが何かを理解し、それを動かすことで広告の効果を最大化させること。「計測」は、計測の基盤を整えて、実施した施策にまつわるデータを正確に収集すること。「分析」は、収集したデータをもとに価値のある意味を見出して、次の具体的なアクションに落とし込むこと、と定義しています。

どれも重要ですが、中でも「導入」と「分析」が非常に大事だと思っています。

なぜその2つが大事かというと、現代では多様化、自動化、断片化が進んでいるからだと考えています。まず、様々な機能や製品が出てくることで選ぶもの自体が多様化している。そしてテクノロジーによって、人が行ってきた作業の自動化が進んでいる。そうして便利になるにつれ、主に PC を使う人もいれば、スマホしか使わない人もいますし、Facebook や Twitter を始めとして、人々が見るデバイスもメディアもバラバラで断片化しています。

正確なデータを収集して計測する基盤を整え、それを分析して、何に充てるべきか、何を導入したらいいのかを選んで稼働させ、その先は機械に任せる。そうするには「分析」する力と適切に「導入」する力が大事だという考えです。


●共感します。一方で、こういった考え方は決して現在の運用型広告、というかデジタルマーケティング全般で支配的な考え方とは言えないような気がしますが、何がボトルネックになっていると思いますか?

業界全体のことは分からないですが、必要な情報を収集しようとしていないケースは散見されるかなと思います。広告主も広告代理店もとにかく大事な業務を兼任していせいか、忙しすぎて、なかなか新しいものを取り入れることができないのではないかと思います。


●それは情報収集する習慣の問題ということでしょうか?

いえ、多くは社内の体制の問題だと思います。運用型広告に本気で取り組む体制を社内的な文化として、経営層も含めてしっかりと理解することが大切だと思います。

売上や効果を上げるための要素が、営業力よりも分析力や導入力に比重がかかってきていますので、世の中の変化に柔軟に対応する姿勢と情報への感度が重要だと思います。


●そういった中でオーリーズのような企業や、川田さんのような運用者の価値はどのように発揮されると思われますか?

大手であれば積極的に新しい技術を取り入れて検証していける体制が整っていると思うのですが、中小企業はなかなかそういう体制が整っておりませんので、同じ予算の中で何を最適化させるのか、大きな会社では手が届かないところまで予算配分を細かく設計することで貢献できるのかなと思います。

個人的には、自分のやっていることに満足しないように、落ち着いてしまわないように気をつけています。「これを知っていたらよかった」という機会損失は、自分にもお客さまにも、なくしていきたいですね。


●素晴らしいですね。では最後に、今後の展望などがありましたら教えて下さい。

企業としては、先ほど申し上げた「導入」と「分析」の力をもっと身につけて、お客さまに提供していきたいと考えています。個人としては、運用型広告でもっと色んな方に知って頂く機会を増やしていきたいです。

そのために、ちょうど弊社でブログを立ち上げました。今後は自分たちの意見をしっかり発信していきたいと思っています。ぜひたくさんの方に見ていただきたいです!

リンク: http://blog.allis-co.com/


●本日はありがとうございました!


All's & Company



2015年6月16日火曜日

商品リスト広告(PLA)の勉強会資料と、関連記事まとめ #スライド付き


当ブログではこれまで何本か商品リスト広告(PLA)についての記事を書いてきましたが、2014年にショッピングキャンペーンにアップグレードされて以来、(考え方は変わらないものの)記事の記載内容が古くなってきてしまっているため、たまにやっている勉強会の資料を共有しつつ、改めてまとめ記事として残しておきたいと思います。



商品リスト広告(PLA)勉強会資料




「データフィード」という言葉が運用型広告の文脈で頻繁に登場するようになったのはここ2−3年です。データフィード自体は以前からITの分野で利用されてきた、ある意味枯れた概念ですが、Criteoのような動的リターゲティングと、Googleの商品リスト広告が着火剤となり、広告運用と結びついて語られるようになりました。(その経緯はこの記事で詳述しています)

つい先日まで、データフィード周りは、「こういうことが将来的にできるようになる」とか「こういう取り組みが始まっている」というレベルの話だったのが、2013年くらいから現実が非常に速いスピードで追いかけてきており、少し前の予測は次々と現実のものになろうとしています。

データフィードは企業の持つファーストパーティデータである商品情報/サービス情報と広告を直接結びつけるものであるため、実践には技術への理解が必要になります。純粋な技術としては特別難しいものではないので、専門の技術者が必要というよりは、技術を前提にした運用や設計について、組織的な理解があるかどうかが重要だと言えるでしょう。

実践している企業の皆さんは、この技術への理解を組織運営に適切に組入れ、リスクを適切にテイクして、Low-hanging Fruit をムシャムシャと食べていらっしゃいます。もちろん、なんでもかんでもやればいいというものではありませんが、カジュアルな挑戦が許容できる文化や体制や意思決定のスピード、そして技術へのオープンな姿勢が、データフィードを活用した広告/販促の成否を分けるポイントになるのではないかと思います。

上記のようなことを、商品リスト広告をフックにしながら勉強会資料としてまとめたのが、このスライドです。以前「データフィード広告の市場動向と環境変化【セミナー資料】」という記事で共有したスライドを改変したものですが、まだ始めていない方へ、少しでも参考になれば幸いです。



商品リスト広告に関する記事のまとめ


登場から約3年が経過した商品リスト広告は、ウェブ上でたくさんの記事を見ることができます。手前味噌を多く含みますが、商品リスト広告関連の記事を集めてみました。とりあえず迷ったらこれを読め!という感じですので、始める際はご参考頂ければ幸いです。(時折更新していく予定です)

※最終更新:2015年6月16日



商品リスト広告(PLA)についてまとめてみる(2012年12月)

商品リスト広告(PLA)の最適化について考えてみる(2013年5月)

PLA(商品リスト広告)と検索連動型広告はカニバるのか?(2013年8月)

AdWordsのショッピングキャンペーンを考える(2014年2月)

eBayの判断に学ぶ、大規模Eコマースの広告運用トレンド(2014年8月)

ショッピング向けAdSenseが拡げる、商品リスト広告(PLA)の可能性(2014年9月)



Google商品リスト広告(PLA)虎の巻

Eコマース・小売だけじゃない!他業種やオフラインへ広がるデータフィード広告の活用


Quantum Leap: データフィードマーケティングの重要性


アナグラム株式会社 | 今日から始めるGoogleアドワーズショッピングキャンペーン、スタートアップガイド【アカウント設定編】

アナグラム株式会社 | 今日から始めるGoogleアドワーズショッピングキャンペーン、スタートアップガイド【商品フィード作成編】

アナグラム株式会社 | 今日から始めるGoogleアドワーズショッピングキャンペーン、スタートアップガイド【Google アドワーズ設定編】











※余談です。

商品リスト広告を使うために必要な Google Merchant Center は、オンライン上に Google が作った、巨大な商品情報のデータベースです。Amazon MWS も同様ですが、商品リスト広告のような強力な販促と分析の機能を備えたプラットフォームが、堅牢な審査機構を保った上で、その販促の強力さ故にデータベースの更新性が担保される(マーチャントが自らデータを繋げる/差し出す)という仕組みは、一度回りだすと勢いが雪だるま式についていくので、順回転の力というのは本当にすごい、恐ろしいとすら思います。

Buyボタンような取り組みは、このデータベースの拡張性が前提になって実装される戦略です。その妥当性は議論の余地があるとしても、彼らにとっては(ビジネスの構造を担保する)販促力の強さを試すある意味局地戦みたいなものなので、その巧拙をいちいち評価することは短期的にはあまり意味がないように感じます。

「データは守るより繋げた方が利得が高い」という事実が続く限り、競合はパートナーに変わるので、孫子を引くまでもなく、極めてシンプルな強さではないでしょうか。

だからこそ、プラットフォームではない大多数の企業は、外部との疎結合が可能な環境にした上で、自分の商売にいかなる優位性があるか?という問いを続けることが、結果的にビジネスの継続性に繋がるのではないだろうか。データフィードに対する巨人たちの戦略を見るたびに、そう思います。



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