2012年11月19日月曜日

広告会社の戦略は、差別化から多様化へ


海外の広告代理店にまつわる記事を読んでいると、時折「Diversity」や「Diversification」という言葉に出くわすことがあります。昨今のアドテクノロジーの普及によってビジネスとしての「多様化」についての言及する記事が目立ってきているようです。


広告関係者は必読のブログである「業界人間ベム」でまさに解説されているように、広告代理店は基幹機能であるメディアバイイング以外の専門領域からの売上構成比が高まってきており、そういった領域の深化自体が広告代理店の競争力として今まで以上に認識されてきたからこそ、「多様化」の意義について再度スポットが当たっていると言えるかもしれません。

先日、ExchangeWire にあがった記事「Moving Beyond Differentiation: Why Diversification Can Evolve The Agency Economic Model (差別化を超えて:多様化はなぜ代理店の経営モデルを発展させ得るのか)」では、広告代理店の管掌範囲の多様化について触れられています。「代理店は終わった」などといった極端な言説も時に見られる中、バランスの取れた簡潔な内容になっていますので、抄訳してみたいと思います。


<リンク>
Moving Beyond Differentiation: Why Diversification Can Evolve The Agency Economic Model
(差別化を超えて:多様化はなぜ代理店の経営モデルを発展させ得るのか)





ここ最近、広告代理店のビジネスモデルは業界誌を賑わせるようになりました。代理店で働いたことがない人たちはこぞって「ビジネスモデルの崩壊」「イノベーションの阻害」「メディアバイイングの慣習は非倫理的だ」といった残念なレポートを書いています。代理店は、データドリブンの経済において、最もイノベーションの成分が少ない機能だと思われているようです。正直言って、こういった言説は代理店がどのように機能しているかを正確に把握できていない人々の誤った情報です。代理店はいまだ業界に深く関わり、エコシステムの基盤として機能しています。

多くの批判が、代理店の動きが遅いことから起こっています。実際、代理店が新しいテクノロジーを取り入れるのが遅いケースも見受けられますが、代理店というモデルは、新しいテクノロジーを取り入れ続け、提供するサービス差別化しながら生き残っていることを歴史は証明しています。差別化のサイクルは、技術革新のスピードと比例して早くなっていくでしょう。


差別化に終わりはあるのか

差別化は、新しいビジネス領域を確保し市場で生き残っていくために生み出され、それは昨今のアドテクノロジーの領域についても同様です。ただし、基本的に代理店は、メディアバイイングの供給者側という立ち位置を外さないようにしながら、差別化を行なっていかなければなりません。メディアの売上が彼らの収益とリンクしているからです。(別途ストプラなどで報酬を得ている場合を除いては)

ただ、この戦略は、グローバルブランドがメディアバイイングを自身でやり始めたらどうなるでしょうか。(クレアラシルで有名な)レキットベンキーザーは、長い間ビデオ広告のバイイングを自社で行なっています。ケロッグはGoogleと直接仕事をしています。P&GはAudience Science との関係を広げています。メディアバイイングから差別化するのは容易ではありません。代理店は、差別化ではなく、多様化を視野に入れなければいけないのかもしれませんが、多様化という形態は、現在の売上における媒体費依存を減らすことが果たしてできるのでしょうか?





すでに起きていた未来?

とっくに代理店は多様化しているという議論もあります。約4年前、トレードダブラーは自身のアフィリエイトネットワークを代理店へホワイトレーベル(OEM)提供することを決意しました。そうすることで、代理店はファイナンスと管理が不要なアフィリエイトネットワークに変貌したことになります。これは多様化でしょうか? いえ、これは既に代理店が取り扱い可能なメディアチャネルから運用マージンを得る方法の一つでしかないと思います。

2010年、トレーディングデスクという形態が誕生しました。これは多様化でしょうか、それとも運用マージンを増やす方法の一つに過ぎないのでしょうか?

本当の多様化とは、−媒体費の多寡とは離れたところにある− 収益源の多様化だと言えると思います。



データ/分析のコンサルティング

賢い代理店は、分析やデータ系のサービスをラインナップに加えることで多様化を図っています。その場合、コンサルティング契約やフィー/プロジェクトベースで仕事をすることになります。多くは既存顧客への追加契約です。こういった新しい要素は代理店にとってメディアバイイング以外のサービスを提供することを可能にします。

持ち株会社のレベルで見てみましょう。WPPグループの Fabric と Omnicom グループの Annalect はいい事例です。後者は単なるトレーディングデスクから脱却しようとしています。データ、テクノロジー、分析を組み合わせて提供することによって、ソリューションベースでのサービス形態に移行しようとしています。

持ち株会社レベルでこういった機能を確保することによって、2つのキーとなる領域をカバーすることにつながります。1つは、コストがかかりがちなビッグデータの山をレバレッジしてビジネスに結びつける能力。2つ目は、既存の収益源を守ることです。持ち株会社の傘下にある代理店は常に差別化の要素をみつけ収益源を多様化する圧力にさらされていますので、代理店が継続的に顧客の心を掴むには、こういった「価値の追加」が常に求められています。





eコマースやメディアビジネス

Forward Internet Group はイギリスで最も興味深い会社の一つです。彼らは、自身のルーツである検索マーケティングに特化していた頃から、SEOやPPCに頼らない自身の商業的資産を持つと決めていたようです。

自社でeコマースをはじめるようになってから、今ではたくさんのニッチなコマースビジネスを運営するようになっています。

彼らは USwitch や Factory Media という、お世辞にも良いとは言えない資産を買収することからコマースビジネスをはじめました。行き詰まった資産を既存のインフラに統合して、パブリッシャーととして再出発させることで価値を引き上げることに成功しました。

Forward Internet は、新しいビジネスを買収したり投資したりすることで、効果的にSEM代理店から今日のようなインターネットグループに発展しました。そしてそれは、他の代理店にとっても、メディアバイイングを超えて多様性を探し出す先鞭として映ったと言えます。





テックカンパニーになる

テクノロジードリブンによる多様化という事例もあります。先ほどのForward Internet ほどではないですが、FixOneはテクノロジーやデータの領域で高い評価を獲得している代理店です。

Blue Mango Interactive は、オランダのデジタルエージェンシーをリードしている、Greenhouse Group 内のもっとも大きな会社です。ほとんどのオランダのテック系企業がそうであるように、彼らもRTBの領域でイノベーターになりました。革新と多様化によって、彼らのテクノロジー部門はスピンアウトされ、FixOne となりました。

FixOne は今や AppNexus のプラットフォームで最も大きなアプリケーションを開発するまでになりました。マーケットを広げる機会を常に模索していた彼らは、国内にグローバル配信のニーズを満たすサービスが足りないことを発見し、結果として、オランダのあらゆるRTB系の開発をリードするようになりました。FixOne は AppNexus のグローバルな基盤をレバレッジするという、テクノロジーを軸に挑戦したことが成功のカギだと答えています。






「長期的に防衛戦略を作ることは非常に大事だ。さもなければあなたの会社はすぐ時代遅れになるだろう。特に広告スペースを買うことについては、早晩コモディティになる。誰もがメディアを購入できるようになれば、どうやって差別化すればいいのか? テクノロジーとイノベーションを通じてこそ、クライアントへ価値提供が可能になるのだと思う」と FixOne の CSOである Kim氏は言います。

Kim氏は「代理店はクライアントにサービスを提供するようにデザインされていて、イノベーションやハイテク製品を作るようにはデザインされていない。これから、大きな変革の時期に直面するだろう。新しい会社としてスピンオフしたり、すでにある会社を買収したりすることは、代理店のライフスタイルに新しい価値を組み込むために必須の生き残り戦略だと思う」と続け、多くの代理店はそういった戦略を執る準備をしていないのではないかとも伝えています。

代理店は、業界誌に寄稿する訳知り顔の識者に非難されながらも、現在のエコシステムの中で引き続き価値のある役割を務めて続けています。しかしながら、代理店がマーケティングのエコシステムと今後も深い関係を保ち、競争力を維持していくためには、新しい売上モデルを開発し、差別化から多様化への変容を求められるようになるでしょう。賢い代理店は、テクノロジーという次のフェーズに移行することが求められているという現状に関わらず、常日頃から素晴らしい「製品」を開発しているものです。



2012年11月15日木曜日

DMP(データマネジメントプラットフォーム)を徹底解説した、IABの白書をまとめてみる



DSP、RTB、SSP に代表されるように、ここ数年来、アドテクノロジーの分野ではたくさんの3文字略語が使われ、浸透していきました。


一年ちょっと前(2011年10月)に「経営を左右する"データマネジメントプラットフォーム"とは?」というポストをしましたが、このDMP(Data Management Platform)も、ここ最近で浸透してきた言葉の一つだと思います。

一方で、DMPという言葉はホットなキーワードとして注目されている反面、上記のポストをした2011年当時では、現実として多くの企業が有効活用しているという段階にはまだ至っていないという理解でした。

あれから一年経って、DMPはどのように理解され、利用され、進化してきたのでしょうか。

IABが今月(2012年11月)発表したDMPの白書「The Data Management Platform: Foundation for Right-Time Customer Engagement」(データマネジメントプラットフォーム:タイムリーな顧客エンゲージメントのための基礎知識) は、DMPの定義や課題、実際の事例などがまとまった、DMPの今を理解する上でとても貴重な資料となっています。さまざまな切り口からDMPについて解説されていますので、重要なポイントを抜き出して抄訳していきたいと思います。


<プレスリリース>
Data Management Platforms Poised to Become Scalable Solution to ‘Big Data’ Challenges, According to IAB & Winterberry Group

<PDFファイル>
The Data Management Platform: Foundation for Right-Time Customer Engagement (PDF)






DMPの定義

2011年の夏に米Forrester Research社が出したレポート「The DMP Is The Audience Intelligence Engine For Interactive Marketers. (「データマネジメントプラットフォームは、ウェブ担当者にとって顧客を理解するためのエンジンだ」)」では、データマネジメントプラットフォームは以下のように定義されていました。


… a unified technology platform that intakes disparate first-, second-, and third-party data sets, provides normalization and segmentation on that data, and allows a user to push the resulting segmentation into live interactive channel environments.

(データマネジメントプラットフォームとは)自社や外部などの様々なデータを抱合し、分割・正規化し、それらをすべてのチャネルに入力する技術プラットフォームである。


今回のIABのレポートでは、以下のように定義しています。

Perhaps the best way to capture the role and potential of the DMP, then, is thus: The embodiment of a “Big Data” solution for multichannel advertising, marketing, media and audience activation.

おそらく、DMPの可能性や役割を捉えるためには、次のような言葉がふさわしいかもしれない。(DMPとは):マルチチャンネルの広告やマーケティング、メディアやユーザーの活性化など、いわゆる"ビッグデータ"と呼ばれるソリューションが具体化したものである。



ただしこの定義も、DMP自体が発する人によってさまざまな定義が生じてしまう現状を考慮した上で設定されているので、どうしても最大公約数的というか、やや総花的な言い回しにならざるを得ないなあと感じてしまいます。「ビッグデータ」という言葉にカッコがつけられているところからも、それが伺えます。

ちなみに、他の定義の例として、以下が挙げられています。

・広告のターゲティングに利用するためにデータを統合する、先進的で自動化されたアプローチ
・顧客体験から個別のインサイトを得ることを助けるツール
・メディア効率、DSPやSSP、トレーディングデスクの存在を可能にするもの
・最終的にマーケターのデータニーズを引き受けるワンストップサービス



DMPへの期待

このレポートでの調査に回答した北米企業のうち77%は、DMPが中長期的に広告やマーケティングにおいて重要な役割を発揮すると考えており、そのうち62%は既にDMPを導入しているか、1年以内に本格導入すると答えているそうです。

期待が非常に高まっているDMPですが、以下のグラフのように、企業によって活用したい分野はさまざま、あるいは非常に広い射程でDMPを捉えていることが分かります。


※P4:Which Of These Enterprise Needs Do You See As Major Contributors To Interest In (And Demand For) DMP Solutions?(以下の「企業のニーズ」のうち、あなたが興味がある、あるいは求めているDMPのソリューションはどれか?:複数回答可)


「ビッグデータ」という言葉がさまざまな意味を内包している(してしまった)ように、そのビッグデータを具現化するDMPもまた、さまざまな役割を期待されているのかもしれません。

上のグラフでは、

「広告のターゲティング効果の改善」:87%
「メディアのオーディエンス購入の促進」:83%
「顧客インサイトの統合」:81%


の3つがそれぞれ80%以上の回答を占めており、やはり昨今のアドテクノロジーの文脈でのDMP利用熱が高いことが分かります。

一方で、上記以外にも、

「クロスチャネルマーケティングの可能性の発見」:63%
「大規模データのマネジメント」:63%
「オフラインデータとオンラインデータを適切に結合」:54%


という回答もあり、単純に広告用途としてでなく、マーケティング戦略の中でDMPを積極的に活用し、競争優位性を確保しようとのねらいがあることも伺うことができます。



DMPを図解する

DMPがどんなもので、どんな役割が期待されているかはなんとなく分かってきましたが、実際はどうやって機能しているのでしょうか。

以下のDMPを図解したチャートを見てみるとわかりやすいです。


※P8:AGGREGATE-INTEGRATE AND MANAGE-DEPLOY


上図は、左から右に流れています。

まず左が「AGGREGATE」、つまりデータを集める部分です。ファーストパーティ(自社データ)とサードパーティ(外部データ)が基本となり、それ以外にオフラインのデータや取引データ、それ以外の変数となりうるパラメータなどがこの部分に該当します。

続いて、真ん中がいわゆるDMPと言われているものの根幹です。
機能としては、集められたデータに対して、以下の4つの作業を行います。

Storage / Warehousing (保管)
Normalization (正規化)
Selection / Segmentation (分割)
Analytics & Decisioning (分析)


最後の右側の部分が、「DEPLOY」、つまり実施の部分です。DMPのアプリケーション機能を経て、雑多なデータが使えるデータに変貌したので、それらを活用するフェーズになります。

具体的なユースケースとしては、独立したデータフィードとして他のアプリケーションのパラメータとして活用されることもあれば、データそれ自体が分析の対象となることもあります。現時点ではオンライン広告のターゲット用データとして用いられることが多いようですが、オフラインデータとの相関や統合が今後のチャレンジとして考えられています 。



このレポートは白書なだけに用語の解説だけでなく、DMPをいろんな角度から解説し、表にしています。すべて紹介するのはたいへんなので、大事なところだけ抜き出してみます。


Q: DMPはビジネスのどの機能を実際にサポートするものなのか?

主に、以下の4つの機能をサポートするもの。

・広告
・マーケティング
・メディアセールス
・コマース





Q: マニュアルでのデータマネジメントと比べてDMPを導入するメリットは?

主に、以下の6つの点においてマニュアル作業よりメリットが大きい。

・データ統合が可能
・スケーラビリティ
・スピード
・目的に合わせた柔軟性
・アクションに結びつける分析や発見
・堅牢性





DMPの課題

これだけ見るとDMPを導入するのはメリットだらけのような気がしますが、多くの企業でまだDMPは本格的に経営の中に組み込まれているとは言いにくい状況です。DMPを導入するのにボトルネックになっているのは何なのでしょうか。


※P28:Which Issues Would You Describe As ‘Major Hurdles’ Inhibiting Faster DMP Deployment?(以下の「主なハードル」のうち、どれがDMPの実装を阻害する要因だと思いますか?:複数回答可)



上のグラフでは、以下の3つが大きな課題として挙がっています。

「内部の承認プロセスやマーケティング部の問題」:73%
「DMPについて内部に責任者がいない」:71%
「経営陣にDMPを担当する役割がそもそもない」:63%


面白いことに、DMPの導入に際しては、技術面や価格面などよりも、社内の組織体制が問題になるケースが多いという事実が浮き彫りになっています。「導入したいけれど、理解されない」「導入したところで、誰がやるんだ?」という声が聞こえてきそうです。

上記以外にも、

「測定基準が明確でない」:56%
「前例がなく、導入に際しての費用対効果がわからない」:55%
「セキュリティやプライバシーの問題が懸念」:44%


という回答もあり、ある意味イノベーションの過渡期における典型的な問題と捉えることもできますが、何はともあれ、DMPの導入においては、単純にDMPの機能を設置すればOKということではなく、データの取り扱いや、各部署との連携や責任の範囲、活用方法や経営プロセスへの組み込みなど、真面目にやればやるほど検討範囲が広がってしまい、DMPの導入を検討することが、そのまま企業の組織のあり方を問い直してしまうという、頭の痛い問題に発展していきやすいということなのかもしれません。



DMPの今後

この白書には、DMPの活用について、活用分野別に

・活用分野の定義
・現状の企業の活用状況
・成長性
・調査パネルからのコメント

というかたちで、1枚づつまとめられています。

例)ターゲティング型オンライン広告への活用 (P:18)



これと同じように、先ほども課題として挙がっていたDMPを導入する上で避けて通れない組織の問題について、「Marketing Operations Restructures (マーケティング運営の再構築)」という項目があります。


Marketers, publishers and other data users will initiate a series of large-scale organizational realignments to capitalize on the potential of their enterprise information assets (with a focus on leveraging the DMP as a central engine for the reinvented, data-driven organization).

データを使うすべての人々は、企業の情報資産の可能性に投資するために、大規模な組織的再編に取り掛かることになるだろう。(DMPをデータドリブンな組織にするための中心的役割にして)


これまでも、イノベーションが進むたびに、企業や組織のサイロ化はたびたびボトルネックとして指摘されてきました。ただ一方で、組織の役割分担をなくしてしまえばスーパーマン以外は仕事ができなくなってしまいます。

過度な理想論ではなく、データを競争力に変換するために、組織を構成する一人ひとりの顔を見て、自社はどうすればいいかを考え、実行していくという、新しい人とデータの関わり方を、DMPは提示してくれるのかもしれません。



2012年11月14日水曜日

Facebookページ、はじめました。



生来の筆不精のため、頑張っても週1回程度という残念な更新頻度の当ブログですが、このたびFacebookページをつくりました。

以下のLikeBoxから「いいね!」して頂くと嬉しいです。(サイドバーにもリンクがあります)

筆不精とはいえ、ブログのテーマに沿うようなニュースや出来事は普段からウォッチしておりますので、Facebookの方ではブログに書くまでもなかったネタや、書くのは面倒で時間がかかるのでとりあえずコメントだけでもしておきたいようなニュースソースを紹介していきます。

こちらは(今のところ)ほぼ日刊ですのでどうぞよろしくお願い致します。





2012年11月5日月曜日

ますます複雑化するリスティング広告という世界で生きていくために



リスティング広告が誕生してから早10年以上が経ち、揺籃期からは想像できないくらい、その複雑さは増しています。プラットフォームとしての重要性が増すにつれ、できることがどんどん増える反面、初心者からすると非常にとっつきにくいまでに設定は複雑化してきています。


現在では、検索クエリや配信先の情報にはじまって、いつ、どこで、どんな人たちに、何の広告を、いくらで、どうやって出すか(出したか)という情報はほぼもれなく手に入り、ある程度までコントロールすることができるようになりました。さらに、アクセス解析データ、商品や購買データ、地図情報など、リスティング広告を実施するにあたって考慮し活用すべき範囲はますます拡がっています。



肥大してきたアカウント


これまでは、(極端に言ってしまえば)リスティング広告はキーワードや広告をたくさん入稿し、昼夜を問わず入札していればそれなりに何とかなっていたと思いますし、そういう認識の人も多かったと思います。

一方で、増改築を繰り返した家に匠のビフォーアフターが必要なように、最初の設計がイマイチなアカウントは徐々に膨張や複雑化をせざるを得ず、運用がしにくくなって機動力が徐々に減退していき、いつしか効果の頭打ちや運用コストの肥大化を支えきれなくなって破綻する、といったケースもSEMの運用においてはよく見られた光景でした。(それで取り扱う代理店がコロコロ変わっていたりすることも…)

広告テクノロジーと呼ばれる分野では多くのプレイヤーが現れ群雄割拠の様相を呈しており、インターネット広告の進化の中心は完全にそちらに軸を移したように感じがちですが、リスティング広告は多くの企業にとってネット上でのペイドメディアの最優先手法であることには変わりがありません。また、リスティング広告は運用型の広告の先駆けでもありますし、この1-2年では特に進化の速度を上げています。

つぎはぎだらけの肥大したアカウントでは、新しいデータや手法を取り入れるスピードがどうしても鈍ってしまいがちです。



アカウント設計のコツ


あらかじめ大きな構成になることが分かっているアカウントはどのように設計すればいいのでしょうか。

広告代理店 Fathom のディレクターである Brad Miller 氏は、SEWに寄稿した「3 Enterprise SEM Challenges & Solutions (企業のSEMにおける3つの課題と解決策) 」というポストで、大きな企業アカウントの設計には、以下の5つのようなコツがあると伝えています。


<参考>
http://searchenginewatch.com/article/2220401/3-Enterprise-SEM-Challenges-Solutions




・キーワードを関連性のある広告のある広告グループに最小分割して割り当てる
・ドメインごとにアカウントは分ける
・広告グループ内に10から20キーワード以上入らないように心がける
・ブランドキーワードとそれ以外ではキャンペーンを分ける
・サイトリンクなど、広告設定オプションに適用できるようキャンペーンを分割する



これらは、普段からSEMをしっかり運用している人にとっては「そんなの当たり前じゃないか!」と思うようなことばかりだと思います。

(ちなみに、同記事の別の項目では「誰もが分かり運用しやすいような明確なネーミングルールをつくる」とか、「自動化を推進する」とか「意思決定は一箇所にする」などもあって、納得の内容ですのでぜひ原文をチェックしてください!)

しかしながら、その当たり前がしっかりできているアカウントは残念ながらそれほど多くないのが実状です。

「キーワードを関連性のある広告のある広告グループに最小分割して割り当て」れば、自然と「広告グループ内に10から20キーワード以上入らな」くなりますが、関連性の高い広告グループの分割をまとめる上位概念であるキャンペーンを設計するときは、ブランド、ドメイン、商品、ターゲット手法、ターゲット地域、デバイス、予算、広告オプションとの親和性など、あらゆる側面から判断しなければ運用や最適化がしやすいキャンペーン構成にはなりません。もちろんウェブサイトの構成や競合性なども考慮する必要があります。「そんなの当たり前」の「当たり前」は、よくよく考えるととても高いハードルなのかもしれません。

リスティング広告でできることが増えたからこそ、アカウントの全体設計と運用性の向上に、代替のきかない価値がひそんでいるのだと思います。



部門を超えた連携の必要性


スピードの鈍化は、アカウントの設計だけでなく、考慮すべきデータの範囲が広がったことによって、単一の部門だけで完結せず、組織を横断し連携する必要がある業務が増加したことも要因のひとつとして挙げられます。

プロモーションで使える手持ちの武器が増えたことによって関わるステークホルダーの数が増えやすくなったため、企業のサイロ化が意思決定を阻害するケースが以前よりも目立つようになりました。

SEL(Search Engine Land) の「3 Guidelines To Scale Your SEM Team(SEM部を拡大させる3つのガイドライン) 」という記事では、「Minimize The Distance Between Stakeholders & Execution (ステークホルダーと実行部隊の距離を最小限にせよ)」と謳って、ステークホルダーの増加によるミーティングの増加と、それに伴った効率の悪化を図にしています。






このあたりは組織形態によってその時の最適解は違うかもしれませんが、意思決定のプロセスをシンプルにするというのはどのような建て付けの組織でも言える最大公約数的な答えの一つではないでしょうか。この記事の著者は、責任の所在と意思決定のプロセスを明確に決めたことで不要なミーティングを削ることができ、週に10時間ほど時間を作れるようになったそうです。

同記事では、組織の仕組みとしてステークホルダーと実行部隊の距離を近づけるだけでなく、実務上での業務配分を変えるというアプローチも同時に採用することが効果的だとしています。

you should have an additional 10 hours a week to become a dual purpose manager. If managers spend a percentage of their time doing front line work, it will automatically increase the productivity of the team.
(1週間のうち10時間をプレイングマネージャーとしての役割に割くこと。もしマネージャーが一定の割合でフロントの業務に時間を割けば、自然とチームの生産性は向上するだろう。)

現場の業務がどんどん複雑化しているので、現場の業務が分からない役割だけのマネジメントは、正確な意思決定ができず、現場の気持ちを汲んだり障害を取り除いてあげるような行動が起きにくいため、チームの生産性を高めることができない、ということですね。

大きい組織での部門間の壁は永遠の課題ですが、少しでも実務を阻害する要因を取り除くために、先ほど取り上げた「3 Enterprise SEM Challenges & Solutions (企業のSEMにおける3つの課題と解決策) 」には、以下のような態度が有効だと提案しています。言うは易く行うは難しですが、ご参考まで。


・Maintain a “get it done” attitude. (”終わらせる”習慣を維持する)
・Find or create your internal champion. (内部の賛同者を見つける/作る)
・Make it easy. (手間を省く/自分でやる)
・Follow up. (フォローアップを欠かさない)
・Utilize Politics. (政治を逆に利用する)




増え続けるチャネルとトラッキング


リスティングで考慮するデバイスがPCだけだった数年前と比べて、現在ではタブレット・スマートフォンと、単純にその数は3倍になりました。そして必ずしもデバイスだけ変えたコピーキャンペーンでよいとは限らず、むしろデバイスごとにそのシーンに合わせてキーワードやメッセージ、LPなどを変えないとユーザーを的確にナビゲートできず結果も伴わなくなるため、オペレーションコストはデバイス以上に肥大していると思います。

2012年10月に行われたSMX EAST のフォローアップ記事である「Paid Search Advertising Gets More Complicated in 2013 (2013年にはリスティングはもっと複雑化する)」にも、2012年8月に初めてPCの検索数が前年割れしたというニールセン(記事だとコムスコアになっていますが…)のデータを引用して、検索数全体は成長しているものの、デバイスのカニバリゼーションは不可避で、マーケターは対応を進めるべきだと伝えています。

<参考>
Paid Search Advertising Gets More Complicated in 2013




デバイスに限らず、検索連動型広告だけでも毎月のように新しい機能がリリースされていますし、それ以外にもディスプレイ広告、アプリケーション・地図・電話、ショッピングデータ連携など、考慮すべき手法は数多くあります。デバイスや手法の分だけ広告フォーマットを用意し、それぞれにトラッキングを行わなければなりません。

また、アトリビューション分析やアトリビューションマネジメントでも、大抵の場合リスティングは重要な役割を担います。アカウントの設計と運用の設計、トラッキングの設計は成果を求めれば求めるほど連動するので、マーケティングの全体設計にリスティングの運用者が担う役割というのは今後ますます大きくなってくるのは間違いないでしょう。



リスティング広告従事者のこれから


非常に早いスピードで変化し、複雑化が進んでいくデジタルマーケティングの環境において、リスティング広告従事者は何を心がけて、どのようにふるまっていけばいいのでしょうか。

SEWの「Innovate or Die: Where Will SEM (and You) be in 5 Years? (イノベーションか死か:この先5年間でSEMはどこへ向かうのか?)」という記事は、SEMという突風に吹き飛ばされないために心がけることとして、以下の5つを挙げています。

How to Ensure You Aren’t Blown Away in the Winds of SEM
Better Knowledge: Stay on top of all industry news, and try to learn about latest developments as quickly as possible.
Broader Horizons: Go beyond your horizons in SEM. With your unique focus on ROI/ROAS metrics, and detail-oriented philosophy, there’s no reason why you can’t manage everything from display campaigns, to offline guerilla marketing campaigns.
Efficient Processes: You will have to learn/continue to learn how to do the lower end work at a lower cost, without sacrificing quality. An in-house analyst won’t be able to outsource some of the lower end work, and you can create better efficiencies, and monetize at lower or equal rates to an SEM analyst.
Innovate: You will need to prove your value consistently, by innovating and showing your clients the innovation. In-house analysts just can’t innovate as fast as you can.
Love Your Clients: It’s easy to gain clients now, not so in the future. Make a special effort to love your clients now!


SEMという突風に飛ばされないために
・知識: 業界のニュースに精通し、可能な限り新しい手法にトライし続けること
・限界を設けない: SEMについて勝手に限界を設定しない。ROIや細部の調整にフォーカスするリス男(女)が、ディスプレイキャンペーンやオフラインのマーケティングができない理由は特にない
・プロセスの効率化: 品質を犠牲にせず、効率よく仕事を進める術を探求し続けること
・革新: 革新や改革をし続けることによって、自身の価値を示し続けなければいけない
・顧客を愛する: 顧客を得ることはこれから難しくなるので、目の前のお客さんに全力を尽くすこと


折しも、先月(2012年10月)に行われた ad:tech tokyo では、クロージングキーノートで Yahoo!Japan のマーケティング領域の脱皮が宣言され、2013年からの大規模な改革が明示されました。

Yahoo! JAPANの新広告ソリューション
http://advertising.yahoo.co.jp/newbrand/

2013年、SEM従事者の仕事は間違いなく増え、重要度はますます大きくなると思います。ニュースにアンテナを張り、新しいアイデアを現場で進めていきながら、目の前の顧客に還元していくにはこれ以上ない環境の揃った年になるのではないでしょうか。自分で限界を設定しなければ、仕事はいくらでも作れる、リス男(女)はそういう場所に立っているのだと思います。

上記の5つの心がけは、リスティングに限らずどんな職業でも本来必要な心得です。たまたまこの業務は変化のスピードが早いので、こういった心がけの有無によって生じる差が顕在化しやすい、ということなのかもしれません。

ますます複雑化するリスティング広告。この風に乗るか飛ばされるかはこれからの自分次第です!
 



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