2013年2月26日火曜日

モバイルの成長率が痛いほどわかるインフォグラフィック




伸び続けるモバイル市場

約1年半前(2011年10月)に、「モバイルの今が痛いほどわかるインフォグラフィック」 という記事で、モバイル市場の強烈な伸びを表したインフォグラフィックを紹介しました。

当時のデータの多くは2010年のもので、その時分でも "2010年のモバイル:PCの比率は 28:72 だったのが、2015年には 52:48 と、シェアが逆転" という、以下のグラフのようなモバイルの急激な伸長が報告されていましたが、それ以降、現実は予測を上回るように急ピッチで変化を続けています。



2013年になって、徐々に2012年のデータが各所から報告されるようになってきました。アクセス解析で有名な KISSmetrics のブログで、モバイルの現状を表したインフォグラフィックの最新版が紹介されていましたので、データソースは上述のポストとは違いますが、この2年間(2011年から2012年)で起こっている具体的な変化を見ていきたいと思います。


モバイルがビジネスをどう変えているのか


リンク:
How Mobile is Changing Business - Infographic
(モバイルがどのようにビジネスを変えているのか)

How Mobile is Changing Business
Source: How Mobile is Changing Business – Infographic



早まるスピードと、縮まった猶予期間

このインフォグラフィックを見て、まず驚くのはモバイルの浸透スピードです。

2010年の時点では、2015年にはモバイルとPCのシェアが逆転すると予測されていましたが、2012年の予測では、2013年(つまり今年!)にはモバイルがPCを上回るという予測になっています。この2年間でモバイル市場は急激に加速し、モバイル対応のための猶予期間はグッと縮まっています。





モバイルからの購入がスタンダードへ

モバイルコマースも急激に伸びています。インフォグラフィック内のデータはいずれもブラックフライデー(感謝祭翌日の金曜日で、クリスマスセールが始まる日)のものですが、モバイル経由の購入額が2011年対比で40%増加、PayPalのブラックフライデーでのモバイル決済が190%増などのグラフに続いて、モバイル経由で購入した人数が2011年対比で166%増という驚異的な数値が示されています。モバイル対応しているEコマースでも、実感値として近いのではないでしょうか。

ウェブサイトのモバイル対応や決済手段の整備が進み、ユーザー側でもショールーミングなどの購買パターンが浸透するなど、モバイルがショッピングの中で自然と存在感を増していることが見て取れます。




モバイルでは我慢強く、分かりやすく

ユーザーの傾向についてもデータが出ています。PCではロード時間に平均3秒しか待てないせっかちなユーザーも、モバイルだと平均5秒待つとのこと。ページの読み込み時間の短縮が売上に直結することはほぼ常識ですが、通信の状況が変わりやすいモバイルでは、ユーザーもPCに比べて我慢強くなる傾向にあるようです。一般的にはPCより通信速度が遅くなりがちなモバイルにおいて、いかにサイトをモバイルに最適化しておくかがポイントになりそうです。

また、モバイルは地域に関連したクエリが多いことも知られていますが、広告に地域に紐づく情報(都市名など)を入れることでCTRが200%増加するという調査結果が出ています。常に持ち歩くデバイスだけに、地域ターゲティングする広告にはその地域を明示/訴求する広告文にしたり、地域を表すクエリと広告を連動させるなどの地道な努力が実を結びやすいといえるでしょう。店舗型ビジネスを筆頭に、旅行や不動産、サービス業全般では必ず考慮したい部分です。





マルチスクリーンを考慮したプランニングを

多くの人がショッピングに複数のデバイスを活用するようになってくると、モバイルの存在を無視してキャンペーン設計することは今後は困難であると考えた方が自然だと思います。モバイルのデータを見るときに気をつけなければならないのは、「モバイルユーザー」というユーザーだけが厳然と存在しているのではなく、ユーザーの生活様式の中にモバイルやタブレットなど複数のデバイスが浸透してきたということを理解することではないでしょうか。

先日発表された AdWords の Enhanced Campaigns も、こういったユーザーの変化に合わせたプラットフォームへ進化していくというGoogle の方向性を表しています。世界で最も大きな広告のプラットフォームが舵を切ったことで、ユーザー側の変化に対して企業の対応速度が以前より速くなると思います。

次にこういったモバイルのインフォグラフィックを紹介するときは、きっと今よりさらに大きな変化が起こっていると考えると、そら恐ろしい感じもしますし、楽しみでもあります。



2013年2月25日月曜日

動画広告とYouTubeの活用法をおさらいしてみる




インターネットユーザーの動画視聴時間は増大

YouTubeの登場によって、インターネットにおける動画視聴という行為がスタンダードになってから数年が経ちました。

ComScore が毎月発表しているデータによると、2012年12月のアメリカの動画サイトの視聴者数は1億8,400万人となり、インターネット人口の約85%をカバーするとのこと。1視聴者あたりの閲覧時間も1ヶ月あたりのべ19時間を超えており、動画の視聴時間はメールなどの用途と比肩するレベルにあります。この傾向は今に始まったことではなく、2年くらい前からずっとこんな感じのようです。

comScore Releases December 2012 U.S. Online Video Rankings
http://www.comscore.com/Insights/Press_Releases/2013/1/comScore_Releases_December_2012_U.S._Online_Video_Rankings




モバイルに特化した調査会社であるOndeviceresearch社が2012年11月に行なった調査によると、調査に参加したアメリカのユーザーの66%が、1週間のうち1時間以上モバイルで動画を見たと回答しています(※)。動画はユーザーの利用時間に対してマーケティングへの活用がやや遅れている分野だと言われていますが、今後動画視聴におけるデバイスの垣根がなくなり、新興国を中心にモバイルデバイスのシェアが高まるにつれ、動画を活用する重要性はこれまで以上に認識されてくると考えられます。

リンク:Nearly two-thirds of mobile phone video usage happens at home
※サンプルは200人とやや少ないので注意。



YouTube のマーケティング利用

上記のComScore のチャートからも分かるとおり、YouTube は他の動画メディアを圧倒的に引き離しており、動画サイトにおける王座は引き続き揺るぎないものがあります。動画をプロモーションに取り入れる場合に、世界で最大のユーザー数を誇るYouTube はどうしてもファーストチョイスにならざるをえません。

Google は、2006年にYouTube を買収してから動画のマネタイズにずっと腐心しており、Google のキラー・プロダクトであるAdWords との連携はもちろんのこと、動画コンテンツを持つパートナー企業のリクルーティングや、動画を制作するクリエイターに対しても積極的にサポートしています。つい先日(2013年2月)には、六本木ヒルズに YouTube Space Tokyo をオープンし、YouTube を活用するクリエイターを対象に、撮影スタジオ、スクリーン、スタジオ、編集ルームなどの施設や、映像制作用機材を無料で提供し、YouTube のエコシステムを加速させようとしています。

動画を利用したマーケティング手法は数多くありますが、多くのマーケターが最初に検討する YouTube の利用法をおさらいすることが、動画を使ったプロモーションのヒントになると思います。今回はYouTube で利用できるメニューを「チャンネル」と「広告」に分けて、それぞれの活用方法を探っていきたいと思います。



チャンネルの活用

YouTube では、「アカウントを持っている=YouTube チャンネルを持っている」状態になります。YouTube チャンネルは「作成した再生リストの配信」や「評価、お気に入り、チャンネル登録、コメントなどのYouTube上でのアクティビティ」などを管理することができます。

チャンネルはカスタマイズが可能で、企業がYouTube を活用する際には、このチャンネルがYouTubeでの活動の中心になります。チャンネルは大きく分けて、通常の「ユーザーチャンネル」と高度なカスタマイズが可能な「ブランドチャンネル」の2種類があり、ブランドチャンネルでは企業のプロモーションやブランドの発信ができるように、ユーザーチャンネルに比べて使える要素や項目の数が追加されています。また、ブランドチャンネルの中でも広告の出稿金額などの基準によって「カスタムブランドチャンネル」のように自由度に差がつけられているようです。


ブランドチャンネルは、残念ながらYouTube の公式パートナーになるか、YouTube の基準を満たす額の広告を出稿しないと利用できませんが、ユーザーチャンネルも以前に比べればずいぶんカスタマイズできるようになっていますので、まずはユーザーチャンネルから始めてみるとよいかもしれません。

参考リンク:
ブランド チャンネルの作成 - YouTube ヘルプ
YouTube Brand Channels Your brand's "Always On" channel(PDF)


YouTube では動画を制作するクリエイターをサポートするためにクリエイター ハンドブックというドキュメントを公開しており、チャンネルの効果的な利用方法もいくつか解説されています。ユーザーチャンネルとブランドチャンネルでできることに差がありますが、このハンドブックを参考に、チャンネルをカスタマイズする上で差がつきやすいポイントをいくつかピックアップしてみます。

クリエイター ハンドブック - YouTube
http://www.youtube.com/yt/playbook/ja/





動画のメタデータ

メタデータとは、YouTube の動画に設定する 「タイトル」、「タグ」、「説明文」などの情報を指します。ウェブサイトで検索エンジンを意識してタイトルタグやDescription を記載するのと同様に、YouTube を動画の検索エンジンだと捉えて検索を意識してメタデータを記載する必要があります。

このデータは、YouTube 内でのインデックス登録や、検索だけでなくおすすめ動画や関連動画への表示にも利用されますので、ここでいかにユーザーを惹きつけるか、検索されやすいキーワードを挿入できるかで、動画のオーガニックアクセスが決まってくると言っても過言ではありません。

動画のメタデータはチャンネル内の動画編集でいつでも追加/変更することができます。毎回一から入力するのが面倒な場合は、指定のキーフレーズをあらかじめ入力しておく「動画のデフォルト」機能があります。また、適切なキーワード/キーフレーズの発見には、YouTubeのキーワードツールを使ってみてもいいかもしれません。



参考URL: http://www.youtube.com/yt/playbook/ja/metadata.html


カスタムサムネイル

動画のサムネイル(開始画像)はユーザーがコンテンツの内容を判断する上でタイトルと同様に最も重視する情報の一つです。動画の内容が同じでも、サムネイルによってクリック率/再生回数は大幅に変わってきます。通常、動画のサムネイルはアップロード時に自動的に生成されますが、ブランドチャンネルやアクティブなパートナーであればサムネイルを任意の画像で設定できるようになりますので、使わない手はありません。

一般的によいサムネイルのガイドラインは、以下だと言われています。

・明るく、はっきりしたコントラスト
・顔のアップ
・視覚的にインパクトのある画像
・適切なフレームと構図
・対象が背景からくっきり浮き上がっていること
・サイズが大きくても小さくても見栄えがすること
・コンテンツを正しく表していること

特に、最後の「コンテンツを正しく表していること」は、動画のタイトルを端的に表すような画像を選択することが、結果的にユーザーの意図と関連性が高くなります。よい広告をつくるときの考え方と同じですね。なお、サムネイルの画像サイズは 640x360 ピクセル以上、アスペクト比は16:9 が推奨されています。

もしカスタムサムネイルが現時点で使えなくても、動画の編集画面では3つのサムネイルから選ぶことができます。


参考URL: http://www.youtube.com/yt/playbook/ja/thumbnails.html


アノテーション

アノテーションとは、動画にテキスト情報を別レイヤーとして載せる(テキスト オーバーレイ)機能です。アノテーションを活用している動画やチャンネルは少ないですが、ユーザーの回遊率を上げたり、シリーズものの動画を連続して見せたり、動画の説明をしたりと、さまざまな用途に利用できます。

動画内でインタラクションをつくるためにアノテーションを活用するには、アノテーションありきで動画を利用したり、あからじめYouTube内のアセットを活用するプランを動画製作時に企画していないといけないので意外とハードルが高いようですが、動画の視聴後に動画への評価やコメントなどを促したり、チャンネル内の別の動画や、検索してたどり着いたユーザー向けにチャンネル自体のリンクを掲示するなど、連続して動画を見てもらうための施策としてはとても使いやすい機能だと思います。


なお、ブランドチャンネルのみの機能のようですが、アノテーションに外部へのリンクを含めることができるので、動画を見終わったユーザーに自社サイトへのリンクを提示することで、動画での認知からサービス説明までの導線をつくることもできます。

参考URL: http://www.youtube.com/yt/playbook/ja/annotations.html


チャンネルバナー

チャンネルバナーは、チャンネルの上部にスペースをつくり、そこへバナー画像のように情報を掲示することができる機能です。一般のチャンネルでは利用することができませんが、パートナーチャンネルやブランドチャンネルであれば利用することができます。

通常はチャンネルのデザインのために背景とは別で用意するケースがほとんどだと思いますが、チャンネルバナーのポイントは、表示領域にイメージマップコードを設定してクリックできることです。


アメリカのマッチングサイトであるeHarmonyのYouTubeチャンネルでは、上部のチャンネルバナーにウェブサイト、Facebook、Twitter の3つの画像と外部リンクを設置して、YouTube以外のコミュニケーションへの導線を作っています。チャンネルのメタデータでも外部サイトへの誘導は可能ですが、より視覚的で分かりやすい設置方法だと言えますね。

なお、チャンネルバナーの幅は970ピクセルで、高さは150ピクセルまで自由に指定できます。

参考URL: https://support.google.com/youtube/bin/answer.py?hl=ja&answer=1735230


有料購読のテスト

クリエイターやチャンネル運営者向けのサポートも充実し始めています。AdAge の記事では、2013年にYouTubeで有料購読の仕組みが提供されるのではないかという記事が出ています。

YouTube Set to Introduce Paid Subscriptions This Spring | Digital - Advertising Age
http://adage.com/article/digital/youtube-set-introduce-paid-subscriptions-spring/239437/

オフィシャルのアナウンスは出ていませんが、チャンネルの有料購読や、アーカイブ動画への課金、Pay Per View(視聴課金)などが予定されているとのこと。近年はオンラインで授業を動画を配信する大学や、YouTubeなどを活用してラーニングプログラムを提供するスタートアップなどが増えていますので、こういった仕組みでチャンネルの多様性が広がっていくのは間違いないと思われます。


広告の活用

続いて、YouTube広告の活用になります。

YouTubeでは、大きく分けて(1)Googleの担当や広告代理店/メディアレップを通じて購入する広告枠、(2)AdWords を通じて入札する動画広告向けAdWords の2種類の広告があります。

2012年の4月から正式に開始されている動画広告向けAdWordsは、これまでのキャンペーン>広告グループ>キーワード/広告 というAdWords のアカウント構造を、動画という軸で再編成したものです。Enhanced Campaigns によってまた変更があるかもしれませんが、2013年2月の時点では、AdWords の管理画面の左側のメニューではじめから別項目として立てられています。

これ以前では、「Click to Play 動画広告」と「YouTube プロモート動画」が AdWords で出稿できる動画広告でしたが、2012年になってからは AdWords プラットフォーム内での動画出稿のメニューが整備され、TrueView 動画広告としてまとめられています。


※音声は英語ですが日本語字幕がつきます

TrueView 動画広告は以下の4種類です。

TrueView インストリーム広告
YouTube パートナー動画のプレロール、ミッドロール、ポストロールとして再生され、広告が5秒間表示された後、広告をスキップするか動画コンテンツに進むかを選択できます。
広告が30秒間再生された場合にのみ課金され、広告が30秒未満の場合は最後まで再生されたときに料金が発生します。

TrueView インスレート広告
10分を超える長い動画(YouTube パートナー動画)の前に表示され、ユーザーが動画を再生する前に3つの広告のいずれかを見るか、動画の合間に表示される通常のコマーシャルを見るかを選択する形式です。
ユーザーが広告視聴を選択した場合に料金が発生します。

TrueView インサーチ広告
ユーザーの検索クエリに対してYouTubeの検索結果にハイライトされる広告です。
料金はユーザーが広告をクリックして視聴を開始すると発生します。

TrueView インディスプレイ広告
YouTube内のおすすめ動画や、ディスプレイネットワーク上の関連するコンテンツに表示される広告で、どちらに出すのか(あるいは両方か)が選べます。
料金はユーザーが広告をクリックして視聴を開始すると発生します。


動画広告向けAdWords については、こちらの仕様をご確認いただくか、昨年(2012年)8月に書いた記事「動画広告向けAdWords 活用のススメ」をご笑覧ください。

出稿する時期にもよりますが、日本ではまだまだ動画を活用したプロモーションが花形とは必ずしも言えない状況もあり、自社の活用パターンをうまく見出した企業は高い成果を上げていると聞きます。まだトライされていない場合はおすすめです。



動画マーケットの今後

eMarketer が2012年1月に発表した市場予測によると、インターネット広告市場における動画広告のシェアは、2012年の7.9%から2016年には15%に拡大すると言われています。企業の動画を利用したマーケティングの事例はずいぶんと増えてきており、今後も安定的に拡大すると見る向きが大勢を占めているようです。

eMarketer のアナリスト David Hallerman氏も、2012年の6月に行なわれたカンファレンスの中で、テレビは依然として強力であり、オンラインへのシフトはスローペースであるとしながらも、動画広告のマーケットについてはポジティブに語っています。




こういった動きを補完するように海外でも動画周辺のスタートアップは増えており、つい最近(2013年2月)も、企業の動画(主にYouTube)をプロモートするVirool社が600万ドルの資金調達を発表したり、日本でもオムニバス社が動画DSPのTubeMogul社と提携するなど、動画ビジネスは日増しに熱を帯びていっている印象があります。

「今年は動画の年」とここ数年は毎年のように言われている一方で、動画を利用したマーケティングがブレイクしているという印象はこれまではあまりありませんでしたが、2013年はYouTube はもちろんのこと、それ以外でも具体的な動きが目に見えて活発になっています。今後は多くの事例が日本からも出てくるでしょう。改めて動画を利用したマーケティングには注目していきたいと思います!



2013年2月6日水曜日

SEMの転職事情を考える



単調で、過酷なSEM

SEM(検索エンジンマーケティング)の業界ができて10年以上(90年代後半からSEOをやっている人は15年くらい)経ちますが、基本的にSEMは離職率の高い職場だと言われています。

人によって転職する理由はもちろんさまざまです。苛烈な労働環境を理由にする人もいれば、他の分野に興味を持った、他社のマーケティングではなく自社のマーケティングをやりたいなど、10人いれば10通りの理由があると思います。

よく聞く転職理由の一つに「SEMは単調でつまらない」というものがあります。26歳女子、ITドカタからの卒業」という某ブログのタイトルは、現場の悲哀を端的に表した秀逸な表現ですが、この「ITドカタ」という表現からにじみ出る単調かつ過酷になりがちなSEMの現場環境が、この10年ずっと離職率が高いままの理由の一つでもあるのかもしれません。

SEMというジャンルでもっとも厚く雇用を支えているのは広告代理店内のリスティング広告の業務です。特に、大学を卒業したての新入社員や若いアルバイトの方々が行う業務は、思いつくままに挙げていっても、予算の進捗管理、入札、入稿、分析、レポート作成、顧客との連絡、トラブル対応、社内調整、社内の管理票や日報の作成、議事録の作成、請求書の作成…など、それぞれ重要ではあるものの一つ一つは細かく地味な業務が多く、タスクとして量と種類が増えがちなため、常に何かに追われて忙しいという状態になりがちではないでしょうか。

こういった管理業務の肥大化は、経営上は通常コストとして認識されます。媒体費のマージンでビジネスをしている以上、業務フローの中で必要な事務的・管理的業務は原価(コスト)として認識されますので、どうしても、価値を創造するのではなくミスをなるべく少なくし早く終わらせるよう、圧縮する力学が働きます。これでは「単調でつまらない」ものになりがちなのも無理はないかもしれません。


一方、優れたSEM担当者のニーズは高い

従来、このような「単調でつまらない」業務は、専門的なスキルが必要とされない単なる「オペレーション」の一環として業務の下位に位置づけられていることが多かったのではないでしょうか。

しかしながら「広告オペレーションは競争力の源泉である」でも触れたように、一方ではリスティング広告に代表される運用型の広告では担当者のスキルによってキャンペーンの結果が大幅に変わるということが当たり前になっています。会社ではなくて人で選べなどとも言われます。

IABの調査(右図)によれば、2012年の上半期(1−6月)の時点で、アメリカのインターネット広告費の半分弱が検索連動型広告だと言われています。この検索連動型広告を表す「Search」には、Google のディスプレイ広告(ディスプレイネットワーク)も含まれています。

AdWords を普段から活用しているSEM担当であれば、ディスプレイネットワークは以前から活用しています。今後のRTB の進展によってディスプレイ広告にも運用の重要性がこれまで以上に認知されてくるようになると、実績のあるリスティング広告の運用担当者の需要はますます増えていくでしょう。

SEO においても同様です。2011年に行われた Webmarketing123 の調査では、B2B/B2C に限らず多くのウェブマーケターが「SEO がもっともリードジェネレーション(見込み顧客の獲得)に貢献している」と答えているように、SEO に関するニーズは企業のウェブマーケティングの中で最も重要な位置を占めていると言っても過言ではないでしょう。


Infographic: Digital Marketer Views On SEO, PPC & Social Media
http://searchengineland.com/infographic-digital-marketer-views-on-seo-ppc-social-media-99648




優れたSEOスペシャリストは多くの場合優れたプロジェクトマネージャーです。SEO の実装に必要な業務はプロジェクトによって多岐に渡り、リスティング広告と違い自分でコントロールできない部分も多いため、結果を出すには全体像の把握および業務の優先順位付けと、実装までを粘り強く管理する能力が必要です。効能を定量的に説明することが難しいタイプの施策もあるため、ステークホルダーである制作会社、デザイナー、商品開発、経営層に施策の意味を説明して実行してもらうことが必要です。また、大きなSEOプロジェクトになればなるほど、技術的な側面のみならずマーケティングや業務フローの改善など幅広い知識と実行力が求められますので、本物のSEOスペシャリストは優秀なリスティング担当者以上に貴重な人材だと言えます。

技術が進めば進むほど、使う人の差が顕著に現れます。「オペレーション」の中で本当にモジュール化が可能な業務はシステムやツールの進化よってコストはゼロに近づいていく一方で、知識を智慧として行使できる人材への企業からの視線は熱を帯び続けています。「単調でつまらない」フェーズを超えたSEMスペシャリストにとっては、キャリアの自由度が非常に高い時代が来たと言っても過言ではないでしょう。


SEM の転職事情

それでは、企業が求める優秀なSEMスペシャリストとは一体どのような人で、実際の転職事情はどうなっているのでしょうか。日本より数倍も厚いマーケットを誇るアメリカを参考に、SEM の転職事情を見ていきたいと思います。SEM は大きく分けてリスティング広告(PPC)とSEO で構成されていますので、まずはリスティング広告から。

リスティング広告(PPC)の場合

以前、リス男とリス女の給与明細 というポストでも紹介したOnward Search 「PPC Jobs Salary Guide (リスティング広告業の給料ガイド)」では、以下のように職種の分布が示されています。




ここには以下の6つの職種があります。

・Online Marketing Manager
・PPC Specialist
・Account Manager
・Director of Internet Marketing
・PPC Analyst
・PPC Coordinator

この中で、「PPC Specialist」は「リスティング広告スペシャリスト」です。「Account Manager」はこれとほぼ同じ職種と考えて差し支えありません。上位職である「Director of Internet Marketing」や、リスティングより広い意味で使われやすい「Online Marketing Manager」を除くと、リスティングの専門職は募集の半分を超えています。このリスティングの専門職で必要とされる能力とは何なのか、PPC Hero に解説したポストがありました。


What Makes a Great PPC Account Manager? | PPC Hero®
http://www.ppchero.com/what-makes-a-great-ppc-account-manager/



この記事では、偉大なアカウントマネージャーと、そうではないアカウントマネージャーの違いが以下の5つの点で示されています。

1. 偉大なAMは、TODOリストを消すだけではなく、その先のゴールを目指している
2. 偉大なAMは、いつ助言を求めるタイミングを知っている
3. 偉大なAMは、全てをコントロールはできないが、起きたことに対して何をすればいいかを知っている
4. 偉大なAMに共通して見られる特徴は、問題が起こったときに24時間以内に原因を発見し対処することである
5. 偉大なAMの強みの一つは、新しい分野を学び、それを試すことができる姿勢である


これらを見てみると、当たり前といえば当たり前ですがリスティング広告に限らず、優秀なビジネスパーソンに共通した特徴が挙げられていることが見て取れますね。

ちなみにこの記事では、面接時によいリスティング広告スペシャリストであるかを判断するための想定質問も記載してありました。これから面接する面接官の方も、これから面接を受けるSEMスペシャリストの方々も、一度目を通してみるとよいかもしれません。

リスティング広告系の職種における質問例:

1. クライアント(or アカウント)に対してあるタスクを完了しなければならない、けれどもそのタスクはキャンペーンの目標を達成するために充分な対策とは言えないときに、あなたがどうするかを教えて下さい。クライアントや上司を納得させ、目標達成を行うには具体的にどうするとよいでしょうか?

2. あるアカウントについて他者に助言やサポートを求めたことはありますか? ある場合、どのようなサポートを、どういうかたちで求めましたか?

3. アカウントの実績が変化したとき、あなたがどうするかを教えて下さい。何が起こったのか?起きてからどれくらい経っているのか?事実を確かめるために最初にすることは何か?どうやって解決するのか?などです。

4. 業務上のミスや外部要因による変化をすばやく察知するために必要な準備や仕組みを説明して下さい。一番最近の事例も添えて。

5. 最近のGoogle のアップデートで、最も学びになったものは何ですか? どのように学んで、実装したことによって何か変わりましたか?


最後の「5. 最近のGoogle のアップデートで、最も学びになったものは何ですか? どのように学んで、実装したことによって何か変わりましたか?」は、経験者採用の場合にはリトマス試験紙になりそうな質問です。SEO においてもリスティング広告においても、2011年頃からのGoogle の機能刷新や更新頻度はそれまで以上に急激に上がっていますので、ここが実例をもって答えられないと実務をやっていない証拠になってしまいかねません。(もちろん、過度にGoogleウォッチャーになる必要はまったくありませんが…)


優れたリスティング担当者の需要は洋の東西を問いません。特に日本よりディスプレイ広告をはじめとしたデジタルマーケティングの技術的/環境的進化の速度が早まっているアメリカでは、リスティング担当者の需要が年々高まっており、「Reflections on Real Time Bidding and Search Retargeting in 2012 (2012年のRTBとサーチリターゲティングを振り返る)」という記事では、

"2012 was a big year for real-time bidding, and also a big year for search marketers getting involved in display advertising. In 2013, I expect the lines to blur further, with more search marketers leveraging their analytic skills into the world of programmatic display."

2012年はRTB の年だったのみならず、ディスプレイ広告の潮流にSEMマーケターが組み込まれていった年でもあった。2013年は、検索とディスプレイの境界がより曖昧になり、SEMマーケター達がその分析スキルをディスプレイの運用に活かす年になるだろう。

とますますSEMスペシャリストの重要性を指摘しています。ディスプレイの進化が続く国々では、この傾向はしばらく変わらないと考えられます。


SEOの場合

続いて、SEOの場合を見ていきたいと思います。
検索エンジンマーケティングでは最も重要なソースの一つであるSearch Engine Watch に、ちょうど先月(2013年1月)SEOの採用事情についての記事が掲載されていました。


SEO Recruitment Tips For Employers & Candidates - Search Engine Watch
http://searchenginewatch.com/article/2239543/SEO-Recruitment-Tips-For-Employers-Candidates



この冒頭で、SEO の転職市場において、企業と応募者それぞれが陥るジレンマについて触れられています。

・For SEO team leaders, the cost of hiring an SEO.
・For impressionable and ambitious candidates, the potential damage a move may do to your SEO career.

・SEO のチームリーダーにとって、SEO担当者を雇うコストが発生する
・SEO の応募者/候補者にとって、SEOのキャリアにダメージが残る可能性がある

これはつまり、企業側からすれば、SEO の担当者を雇うということは、SEO の毎月のコストを確定させるということになります。外注であれば変動費であったものが固定費に変わるわけで、これは単純にリスクです。また、コストを確定させるということは、SEO担当を採用して継続的に施策を行うことが、外注する場合よりも有利であるという試算ができていないといけません。大手のメディア企業等でもない限り、この試算がしっかりできている企業は少ないと思われます。(そもそものジレンマに、優秀なSEOスペシャリストを見抜く目をもったリクルーターが存在しない、ということもありますが…)

応募者にとっても企業のSEO担当として就職することはリスクになり得ます。外部のSEOコンサルタントやウェブ制作会社に所属していれば、多くの企業のSEO に携わることができ、スキルを磨く機会に恵まれていますが、企業のSEO担当になると、その機会が著しく減る可能性があります。もちろん、「インハウスSEO実践者のインタビュー」という記事で紹介したジョン・コール氏のように、インハウスSEOでキャリアを積んでいける場合もありますが、すべてのSEOスペシャリストに当てはまるとは限りませんので、自ら学ぶ機会を創出できる方でないとなかなか難しいかもしれません。


この他にも、SEMsにはお馴染みの Search Engine Journal にも、「SEOの面接対策 2013年度版」と銘打った記事が掲載されています。


Passing an SEO Job Interview in 2013 | Search Engine Journal
http://www.searchenginejournal.com/passing-an-seo-job-interview-in-2013/57148/



この記事はSEO の面接においてのハウツーがたくさん詰まっていて興味深いのですが、その中でも、特に大事だなと思われるSEO 特有の質問が、リンク・ビルディングについてです。リンクスパム業者は昨年いっぱいでほぼ一掃されたように思いますが、企業の資産となりうるリンク生成を、マーケティングの文脈で継続的に実行できるかどうかは、インハウスSEO担当者次第だと言ってもよいかもしれません。

Talking about link building
Here’s a tricky question once discussed at Search Engine Roundtable – what are the ways to build natural links? I’d agree with some commentators – you cannot BUILD natural links, links come out naturally on 3d party blogs and websites when you produce truly useful or viral content.
... If I held an SEO interview, the chances are high I would ask you about the Penguin update, the link disavow tool and your experience with it.

リンク・ビルディングについて
これは以前にSearch Engine Roundtable で議論されたトリッキーな質問で、「ナチュラルリンクを構築する方法は?」というものです。私はコメント欄の「ナチュラルリンクは構築するものじゃなく、とても有用だったり面白いコンテンツを作ったときに、外部のブログやサイトから自然と集まるものだ」という意見に賛成です。
(中略)もしSEOのインタビューをやるなら、ペンギン・アップデートやリンク否認ツールについての意見や経験を聞くチャンスだと思いますね。


多岐にわたるSEO のスキルセットですが、SEO を仕事にすること、そのために必要なスキルセットについては、SEOの神様(密教系)と言われる辻さんブログにすべてが書いてありますので、ぜひご参考ください。

SEOのスキルセット/あるいはSEO業界へのお誘い by @tsuj
http://webweb.jp/blog/seo/sem-skill/



SEM で転職するということ

冒頭で触れたとおり、基本的にSEM は離職率の高い職場だと言われています。一方で、誰もが逃げ出す斜陽産業では決してなく、むしろ今後のキャリアにとって糧となる経験を積むことができる面白い分野であるとも言えると思います。

もちろんこのポストで安易に転職を勧める意図はありません。どんな職業においても、今の職務に全力を尽くすことが次のキャリアに繋がるのは間違いないと思います。目の前の仕事を放り出して隣の青い芝を眺めてばかりの人に、巡ってくるチャンスは少ないものです。一方で、時流を捉え、自身のスキルを会社ではなく社会全体の中で相対的に捉えたときに、何が必要なのか、どうすべきなのかを常に考えていくことは、現在の職務を一生懸命やることと相反しない重要なことだと思います。

SEM は、従事していない方々が想像するより、ずっと奥が深く面白い世界です。全国のSEM に従事している方々が今後も楽しく働いていけるよう、そして、これからSEM でキャリアを積んでいきたいという若い方が増えていくよう、ますますSEM にまつわる業界が健全に発展していくことを願ってやみませんし、微力ながらその一助になっていければと考えています!



Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...