2014年3月10日月曜日

パブリッシャートレーディングデスクとは何か?


パブリッシャー(メディア)の抱える課題

「アドテクノロジー」の文脈で語られる近年のディスプレイ広告の変革は、広告主や広告代理店、それらが利用するDSPなどのいわゆるデマンドサイドと呼ばれる購入側の進化を示すことが多いと思います。

RTB(リアル・タイム・ビッディング)と呼ばれるように、リアルタイムでインプレッションを取引し、パフォーマンスに合わせて運用が可能なプログラマティックバイイングは、それまで固定の CPM での取引が基本となっていたディスプレイ広告に消極的な態度を取ることが多かった、ダイレクトキャンペーンを重視する広告主を中心に広まることで、短期間で大きな市場を形成してきました。

一方で、ディスプレイ広告がパブリッシャー(メディア)の文脈で語られることは相対的に少ないように思います。

ブログやソーシャルメディアの一般化、ユーザー側のデバイスやネット接続環境の進化もあって、取引単位であるインプレッションを生み出すことは以前よりずいぶんと容易になりました。続々と生まれる個人や新鋭のメディアが RTB の恩恵を受けてカジュアルに収益化を進める一方で、伝統的なメディアでは取引の複雑化やインプレッション単価の下落を避けたい意図もあってか、デマンドサイドほどには RTB への対応が進んでいるとは言えない状況です。

どのようなメディアかにもよりますが、現状維持ではインプレッションの販売率は下がってしまう一方で、これまでの固定CPM の単価水準を維持できるサイトは少ないとなると、どういったバランスで広告ビジネスを推進していくべきなのか、経営判断を迫られているメディアは多いと思います。

2013年11月に行われた「Ad Operations Summit 2013」でモデレータを務めた Operative の CEO である Lorne Brown が、ディスカッションの冒頭で

"New competition is forcing publishers to create new business models"
新たな競争は、パブリッシャーに新たなビジネスモデルを要請している。

と発言したのも、デマンドサイドから加速した変化が、徐々にメディアに新しい事業モデルを生み出す機会とプレッシャーとを同時に与えているという状況を端的に表現していると思われます。


Publisher Trading Desk とは何か?

2013年頃から、Publisher Trading Desk(パブリッシャートレーディングデスク)という言葉を聞くようになりました。

通常、トレーディングデスクというとデマンドサイドで広告運用を行う組織を指すため、パブリッシャーが位置するサプライサイドに採用するには少し馴染みにくい言葉です。広告を掲載する役割であるパブリッシャーが広告運用を行うトレーディングデスクを持つ意味とは、一体何なのでしょうか。

2014年1月にポストされた Digiday の記事「The rise of the publisher trading desk (パブリッシャートレーディングデスクの台頭)」が、パブリッシャートレーディングデスクを捉える上で非常に参考になるので、いくつか引用してみたいと思います。


The rise of the publisher trading desk | Digiday
http://digiday.com/publishers/rise-publisher-trading-desk/

"Major publishers have accepted that programmatic advertising is here to stay, and most now sell significant portions of their ad space that way. Now a handful are taking their ad tech experiments a step further, using it to buy inventory from third-party sites and exchanges, repackage it and sell to their advertiser clients at a premium."

"今日では多くの大手パブリッシャーがプログラマティック・バイイングを受け入れており、RTBを通じて多くの広告在庫を販売するようになりました。そして、幾つかのパブリッシャーは、他社のサイトやエクスチェンジから広告在庫を買い取り再パッケージして販売するという方法で、アドテクノロジーの実験をもうワンステップ先へ進めようとしています。"
"Condé Nast, the Washington Post and the Guardian have all launched publisher trading desks in the past year. The idea is for those units to take information gleaned from owned and operated properties, and to use it to target users elsewhere on the Web on behalf of clients. An advertiser may wish to reach a specific publisher’s audience, for example, but care little if it actually does so on that publisher’s sites. That’s the opportunity publishers are hoping to exploit."

"コンデナスト、ワシントンポストやガーディアンは、いずれも2013年にパブリッシャートレーディングデスクを開始しました。これらはいずれも、自社メディアや配下にある関連サイト等から収集された情報を活用して、広告主に変わってユーザーをターゲティングするという意図で組織されています。例えば、広告主は特定のメディアが持つオーディエンスにリーチしたいと考えていますが、広告主は本当にそのサイトのオーディエンスかどうか一定の注意を払いながら出稿する必要があります。ここが、パブリッシャーのビジネスチャンスなのです。"
"“We use our first-party data to target ads both across our own sites, and across the outside market. It’s working very well,” said Alanna Gombert, general manager of Condé Nast’s CatalystDesk programmatic division. “We use our own buying platforms and do our own buying,” she added.""

「私たちは自社サイトとその外部の両方に対してターゲティングするために自社のファーストパーティデータを活用しています。上手くいっていますよ。」とコンデナストのトレーディングデスクである CatalystDesk で部長を務めるアランナ・ゴンベールは言います。「私たちは、専門のチームで専用のバイイング・プラットフォームを利用しています。」
"It’s clear, however, that publishers are now embracing ad tech more than ever and looking for ways to turn what many have perceived as a threat to their business models into something that can help unlock new revenue streams instead."

"パブリッシャーは明らかにこれまでよりアドテクノロジーと結びつきつつあり、これまでは脅威と考えていたアドテクノロジーをいかにして新たな収益源へと変えていくか、その方法を模索している段階です。"

図解で考える Publisher Trading Desk

上記の記事を読む限り、パブリッシャートレーディングデスクはこれまでデマンドサイドのデータを利用してターゲティングしていた広告を、より精緻な自社データ(と顧客理解)を持つパブリッシャーが、デマンドサイドとして広告主の運用を肩代わり(≒トレーディングデスク)することを指しているようです。データを単にアグリゲータに販売するのではなく、収益化のために一歩踏み込んで活用する組織とも言えるでしょう。

では、その組織は具体的にどのような商流で、どのように運用されているのか、以下の adexchanger の記事が分かりやすく例を挙げて説明していますので、抄訳と図解をしながら考えてみたいと思います。


How Publishers Can Beat Agencies In Trading-Desk Advertising
http://www.adexchanger.com/data-driven-thinking/how-publishers-can-beat-agencies-in-trading-desk-advertising/


架空のスポーツ系コンテンツのポータルサイト BigSports.com を事例として考えてみます。BigSports.com はコムスコアのスポーツカテゴリ上位の有名サイトです。有名サイトなので広告在庫はいつもプレミアム(純広)で販売しています。

ある時、大手広告主が「バスケ好きなユーザー」をターゲットに100万ドル分の出稿を検討しています。しかしながら BigSports.com にはバスケカテゴリの広告在庫が80万ドル分しかありません。仕方ないので広告主は80万ドル分で BigSports.com 内のバスケセグメントの在庫を買い占め、残りの20万ドル分はエージェンシートレーディングデスクに依頼して RTB を通じて他サイトの在庫を購入することになりました。

なお、その際にバスケセグメントのユーザーやそれに類似したユーザーを見つけるため、DMP(例:MediaMath)を利用することになります。

その時の状況を図にすると以下のようになります。(図はadmarketech.作成)



しかしながら、BigSports.com はコムスコアの上位サイトなので、他のサイトよりも詳細にバスケ好きのユーザーの情報を持っているはずです。例えば、これまでのキャンペーンデータや、自社サイトのアクセスデータ、そして広告を通じて広告主サイトへのアクセスしたデータなどです。

さらに、コンテンツも広告も配信しているわけなので、どういったコンテンツとクリエイティブの組み合わせが相性がいいのかといった情報の蓄積もありますし、BigSports.com の記事は同じようなテーマの別のサイトにも配信されていますので、他のサイトを見ている同じ興味を持ったユーザーにもリーチすることができます。

そうなると、BigSports.com 自体がトレーディングデスクを開設し、広告主のためにリーチを拡大する仕事を担ってもいいのではないでしょうか。その場合、以下のような図になると思います。



この図では、濃い青色の部分が新たにパブリッシャーに追加された機能です。サプライサイドとデマンドサイドの垣根が曖昧になっています。今回の「バスケ好きなユーザー」のように、収益化が可能にも関わらず広告在庫が頻繁に不足するような場合、パブリッシャーは DMP をインストールし、広告主の残りの20万ドルを収益化するためにトレーディングデスクの人材を雇う方が賢明かもしれません。

広告主は、特定のオーディエンスに対して深い理解を持ち、プレミアムコンテンツの生みの親でもあり、精度の高いファーストパーティデータを保有するパブリッシャーをより信用するようになるでしょう。


DMP とオーディエンス拡張技術がカギ

パブリッシャートレーディングデスクというビジネス形態を採用する上で、DMP の採用はほぼ必要条件になります。

濃いセグメントを持つバーティカルサイトのような、セグメントがはっきりしているサイトであればあるほどファーストパーティデータの価値は高いとされるため、広告在庫を外部から調達する上で、そのデータを利用したオーディエンス拡張がパブリッシャートレーディングデスクの成功のカギを握っています。DMP と接続する DSP にとっても、パブリッシャーDMP はまたとない収益化の機会でもあります。

オーディエンス拡張の重要性については、以下のAdMonsters の記事でも言及されています。


Publisher Audience Extension: Old Concept New Players | AdMonsters
http://www.admonsters.com/blog/publisher-audience-extension-part2

"As audience extension basically turns publishers into media buyers, DSPs actually make sense as a partner with great experience in targeted ad buying. "
"オーディエンス拡張は、パブリッシャーをメディアバイヤーに変えます。DSPは(これまでの入札-応札の関係から)ターゲティング広告の購入経験が豊富なパートナーとなります。"


パブリッシャートレーディングデスクの強みは、精度の高いファーストパーティデータと、そのデータから拡張された類似オーディエンスの精度の高さによって、成果を返しやすい広告在庫を柔軟に確保できるということではないでしょうか。今後は、パブリッシャーサイドでもデータ収集と管理を担う役目として DMP の導入と、それを適切に運用する重要性(および人材の採用)がより増してくると考えられます。

パブリッシャートレーディングデスクは、アドテクノロジーの進化によって可能になったメディアの新たなビジネスモデルとして注目されています。エッジが立ったバーティカルメディアであればあるほど、今後のビジネス開発の機会は増えていくでしょう。

2014年は日本でもパブリッシャートレーディングデスクを採用する事例が増えてくると考えられます。メディアビジネスの変化の萌芽であるこの動き、引き続きウォッチしていきたいと思います!



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