「立ち上がれ、現場!」といつも思っています。–Tweak Marketing 一木稔人氏:State of AdOps vol.17


「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。

※過去の記事はこちらから。

第17回目は、リクルートやロックオンなどを経て、現在はフリーランスでマーケティングコンサルタントとして活躍されている、Tweak Marketing代表の一木稔人(いっきなるひと)さんにご登場頂きます。

第三者的な立場でさまざまな運用型キャンペーンの現場にコミットしている一木さんの目に、現在の運用型広告はどのように映っているのか。実際の実例をもとにデジタルマーケティングの最前線に起きている課題についてお伺いしました。


# インタビューは 2015年5月に行われました。


広告主から見ると、ユーザーがすごく遠い


●まずは、一木さんが現在のお仕事に就かれるまでの経緯と具体的な業務内容を教えて下さい。

Tweak Marketing Co の一木と申します。現在はフリーランスとして主に、「コミュニケーションプランニング」「マーケティングコンサルティング」「各種統計分析/アクセス解析」「新規事業コンサルティング」を軸に活動しています。

元々は前職の株式会社ロックオンで得た経験を生かして、アクセス解析や統計解析の仕事が多かったのですが、徐々に「じゃあその分析結果をもとに、どうしていけばいいの?」というマーケティング全体の意見、コンサルティングをだんだんと求められるようになりました。

そうしていくうちに、広告に触れているユーザーがどういったものを求めているのかを考えるようになり、そこから発展して企業のコミュニケーションプランニングと、必要に応じて業務範囲が広がってきた、という感じです。

営業を極めようとリクルートに入り、リクルートで扱っていた紙媒体では分からなかった広告効果を測りたいと思って辿り着いたのが前職のロックオンでした。6年半ほど勤めたロックオンを2014年の夏に卒業して、今に至ります。


●ありがとうございます。では早速ですが、現在の広告キャンペーンは、Terence Kawaja氏のカオスマップの比喩に倣えば、左側に広告主がいて、右側にユーザーが触れるメディア/パブリッシャーがありますよね。そして、その間にたくさんのプレイヤーがひしめいている状況だと思います。今の一木さんの立場だと、その中でいろいろな立ち位置で仕事ができるのかなと思いますが、特定の利益を代表しない第三者的な立場から見ると、現在のキャンペーン企画の現場って、どんな景色になっているんでしょうか?

まず感じるのが、左側にいる広告主から見ると、一番右側にいるパブリッシャー、その先のユーザーがすごく遠い、ということです。

なぜそう感じるかというと、例えば、企業がサービスの企画を練り、製品の試作、マーケティングを行っていくうちに、当初の企画と生活者に届いたものがだいぶズレていってしまう、ということが頻繁に起きているからです。しかも、大きな企業であればあるほど、ズレたまま直らない傾向があります。キャンペーンがユーザーに届くまでの間に、当初の企画というか ”想い” のようなものが、伝言ゲームのようにいろいろと変わっていってしまうんですよね。

あとは、企画の段階で最初からボタンを掛け違えていることもあるので、伝言ゲームの結果、本来伝えたかったことの数%しか伝わっていない、ということもよくあります。


●なるほど。でもそれはデジタルのキャンペーンに関わらず、以前から起こっていたことですよね。

そうです。それがデジタルになったことでデータが取れるようになった、だから露呈しやすくなったんですね。昔は勘で「こうあるべき」とか、「これが正しい」と皆が信じ込んで動いていたものが、「こちらよりもあちらの方がユーザーにとってよさそうだ」ということがデータとして分かるようになってきた。

でも、企業担当者さんや広告代理店さんはなぜか一生懸命それを見ないようにするんですよ(笑)。上司やクライアントがこう言っているから、とか、こういう報告はしにくい、とか。仕事で本来見なければいけないのは生活者・ユーザーであるはずなのに、その前提がどこかに行ってしまっていることがある。

そういうケースに限って、その担当者の上司やクライアントに直接データを基にした事実をお伝えすると、「今すぐこうした方がいいんじゃない?」という英断が出てきたりします。ですから、仕事上で企業のご担当者とお付き合いする際には、「現実に目をそむけないように」と強くお伝えするようにしています。



●「誰を見て仕事をするのか」という話に続けて聞きますと、運用型広告の現場では、何となく“数字”や“べき論”を見すぎる傾向があるような気がします。そこに問題意識をお持ちなのかと思うのですが、どうですか?

そうですね。プロジェクトの現場で、例えば私が提案した広告施策に対して、「この広告施策良かったです」と数字を踏まえた評価を受けることがあります。有り難い反面、ちょっとだけ違和感を感じることもあります。良かったかどうかはそれほど重要ではなくて、大事なのは「なぜ良かったか」なんですよね。

なぜそれをユーザーが好んでくれたかという視点が企業担当者さん、代理店さん共に、提案、レポート、PDCAのあらゆるところで抜けていて、コミュニケーションの設計がユーザー中心になっていないなあという印象を持っています。


●一方で、現実問題として企業の担当者は売上を無視することはできないですよね。売上を構成する様々な要素がある中で、それが発生する要因は何なのかに目が行かない、ということなのでしょうか。

売上はもちろん重要なんですが、その源泉は、生活者や顧客に必要性や価値、満足してもらった結果として生まれますよね。聞こえのいいことばかり言ってお客さんを引っ掛けても、全然満足してもらえないと一時的に売上は上がったとしても結局続かない。でも今の担当者・広告運用者レベルだと、極端な話、それでもいいから短期的に売上を上げるという方向にいってしまいがちです。リターゲティングで無理矢理追いかけて広告をガンガン出そうと、というのもその現れなのかなと思います。それは局所的なCPAを下げることが目的であり、本質的に“売上を見ている”とは言えないのではないかと。


その広告主のことが好きになっちゃうんですよ。


●ありがとうございます。では、そんな現場で一木さんがどんな仕事をしているのか、言える範囲で結構ですので教えて下さい。

これはある防虫剤の製品キャンペーンの消費者分析で使ったスライドです。商品はあくまでイメージですが。




●これは、、、いきなり胡散臭いスライドですね(笑)!

その反応、待ってました(笑)。そういう反応があるだろうなと思って作っています。確かに胡散臭いし、何だか何も言ってないような気がするんですけど、注目はしますよね。「顧客満足って、そんなの分かっとるわ!」みたいな反応が出た上で、次のスライドは、これです。



これはAmazonレビューを一つ一つ読んでネガポジを出しています。テキストマイニングもやってみましたが、テキストマイニングでは、行間の思いというのは本当に読み取りにくいです。実際アウトプットとしてはあまりピンとこなかったので、すべて目視による集計を実施しています。データってスマートなイメージがあるかもしれませんが、時にはむちゃくちゃ泥臭いんです。


●195人分の感想を目視ですか、出来そうで出来ない、ギリギリの数ですね。

夜な夜な195人分の感想をすべて読んだ自分と、データだけ見ている人達では、ユーザーのフィードバックに対する受け止め方が違います。例えば、企業は製品に香りを付けなければいけないと思っているけれど、ユーザーは実は無香料こそ一番求めていたりするんですよね。



だから、次のスライドでは、こうなります。これも、これだけ最初に見せられたら胡散臭いと思いますが、最初のスライドとの対比で、アンケートの分析を経た上では、受け止め方が変わります。

その結果、当然、製品改善は時間を要しますので、マーケティングでどの部分を訴求し、どの部分をフォローするか?どういった人に?どの媒体で?を全体で議論する訳です。

私は、数十時間かけて資料作っている間、めちゃめちゃその広告主のことを考えています。だから、何か好きになっちゃうんですよ。企業のことも、製品のことも、使っているユーザーのことも。分析した結果、企業がそれを受け止めてくれるだけで嬉しくなるんです。

分析の報告会でありながら、こうした資料はマーケティングだけでなく製品開発にフィードバックすべき内容だったりするので、データに慣れていない開発部門の担当者が見ても分かりやすいよう意識して作っています。


●すごいですね。これをメディアのコミッションで利益を得ている代理店さんがやるのはなかなか難しいのかなと思ってしまいました。この役割をどこが担うのかは、ビジネスモデルの問題なんでしょうか。

仰り通り、メディア中心のマーケティング設計になっている以上、こう言った作業はなかなかできないですよね。でも、広告の目的が“生活者と企業を結ぶ”ことであれば、企業はその分の費用を払ってでもやるべきだと思いますし、そういうことを提案してくる代理店さんと付き合うべきだと思います。

データと騒がれている最近でこそマシになりましたが、今でも「広告費(PD)2,000万円は出すけど、その広告の評価・改善策(CA)には・50万円も出ません。」という企業担当者さんや「メディアコミッションのほうが利益率高いのであえて面倒な分析・レポートは提案しません」という代理店さんのセリフをよく耳にします。それに対し、アホか!とお伝えするのが、私なりの愛です(笑)。


消費は会議室で起こっているわけではない


●ありがとうございます。こういった本来あるべき消費者分析の視点が持ちにくくなり、先ほど仰っていた「目標に追われて短期的な視点になる」傾向があるのは何が原因だと思いますか?

やはり売上の数字が上がっているかどうかで判断されてしまうので、企業担当者も数字さえ上げればいいんでしょ、という考えになっています。まぁ、それはそれで良いのですがマーケティング担当者はさらにその数字を上げるためにコンバージョンを上げればいいんでしょ、CPAを下げればいいんでしょ、という風潮になってしまっています。

先ほども申し上げましたが、“なぜ商品を買っていただけたのか?”を理解しないで短期指標の上下に一喜一憂する目標設定には問題があると思います。

例えば報告レポート一つとっても、“生活者のニーズが◯◯の点から◯◯であると仮定し、広告の運用をそれに合わせ◯◯した結果、CPAが下がりました。このニーズであれば同じように◯◯も効果的と思われます。”という、◯◯に入る事象への想像力を持ないから、掲載媒体の選択肢が減っていくのだと思います。


●なるほど。でも厳しい目標設定というのは、以前から存在していますよね。以前はアンケートを取ったりして、キャンペーンが終わったあとに売上との相関を見ようとしていたけれど、今はそういったフィードバックの前に実際の売上やCTRなどの大小さまざまな指標がリアルタイムで見えてしまうから、その数字を上げればいいという風潮になってしまっている。つまりデータが見える化したことで良い面だけでなく負の面もあるということなのでしょうか?

そうですね。データが正しく使えていないというか、データに振り回されるというか。CPC・CTR・CPAなどの因数のデータだけを注視していますが、現実はもっと複雑だと思います。誰かが、その複雑さを理解した上で部分的な役割として依頼しているならいいと思いますが、誰も理解しないまま自分の責任範囲のデータに対しのみ部分最適が行われていて、部分の間で喧嘩しているような状態がよくないなと思っています。

私が業務として取り組んでいるのは、チームをまとめることです。ベンダーさんや代理店さんをまとめて、キャンペーンが前に進むように依頼をしていくこと、とも言えます。企業さんによって、「自分はここまではできるけどここからはできません」という姿勢のところもあるのですが、気持ちはわかるものの、狭い分野のみ得意でこれ以外は提供できないとはっきり言われると、キャンペーンの成功の妨げになることが多いので、どうしても頼みにくくなってしまいます。

もちろん無理をしろと言っているわけではなくて、それぞれにプラスアルファが欲しいだけなんです。ベンダーさんであれば、顧客から特定のニーズが多いのであれば、それに対応すれば顧客満足に繋がり売上が上がっていくはずなのに、自分たちで業務領域を定義してそこから出て行かないことが多い。広告主が何を求めているかをちゃんと理解して引き出しの幅を広げないと、単純にビジネスを失ってしまいますし、もったいないなと感じます。


●質問が難しいのですが、一番もったいないと思うのは、ステークホルダーの中でどのあたりですか?

広告主さんでいえば、社内のややこしいしがらみ、派閥があります(笑)。そこから微妙なバイアスのかかった企画が下りてきて、代理店さんがキャッチアップすると、その時点で既にとんでもないことになっています。さらにそこからベンダーさんに下りてくるときに、「これは言わなくていい」みたいなフィルターがかかっていたりします。プロジェクトを丸く収めるためにそういう指示があるんですが、今言った話にユーザーは一切出てこないんです。

これが今のほとんどのマーケティングの実態だと私は思っています。もったいないというと、全部かもしれませんが、こういった現状をバッサリと切り、風通しを良くすることが私の仕事です。


●今のお話には「個人の裁量や資質」と「会社の姿勢や文化」という2つの問題があるのかなと感じましたが、どちらの問題の方がより大きいのでしょうか?

顧客中心のマーケティングを行うべきだと掲げている割に、ユーザー(=広告主)のニーズに応えていない会社は多いです。広告主さんのパートナー/サポーターであるベンダーさんや代理店さんが、自身の製品やサービスのマーケティングをできていない。組織体制もあるかもしれませんが、組織は個人の集合で成立していますので、根っこは個人の姿勢の問題のように感じます。特に御用聞きに終始してしまうようなベンダーさんや代理店さんの担当者と一緒にやっていくことは、厳しいですね。

ぜひ現場から声を上げてほしいと思うんですよね。「立ち上がれ、現場!」と、いつも思っています。イノベーションは会議室では生まれにくいですし、消費も会議室で起こっているわけではないので。「なぜこれが売れているのか」を、現場は一番知っているはずですし、知っているべきなので。




●ありがとうございます。一木さんは実際に立ち上がったというか飛び出しちゃった方ですが、みんながみんな一木さんになれるわけではないですよね。現場を良くしていく事例を増やしていくには、現実的にはどういったことが必要だと思いますか?

仰る通りで、課題はどうやってスケールさせていくかだと思います。この業界だからテクノロジーでできることの幅はありますし、難しいのは重々承知ですが、縦割りというか、“俺の領域はここからここまで”というのを社内で取り払っていくのが大事ですね。

流れの早い業界だからこそ、もっと上司を信用し、もっと部下に頼るような関係性が必要だと思います。組織を飛び出した私が言ってもあまり説得力がありませんが(笑)。


●自分の持ち分でできることがもっとあるでしょ、ってことですよね。結果的に立ち上がった方がいい人は立ち上がればいいし、代理店でもプラットフォームでもベンダーでも、個人のキャリアにもなり、広告主さんやパブリッシャーにとってもっとよくなることがあるはずだと。

はい。言いたいのは、「もっとお客さん/ユーザーを見ようぜ」ってことなんですよね。特に代理店さんやベンダーさんの担当者は、自分の売上がいくら足りないからという観点ではなく、ニーズを満たすことがまず先なんじゃないかと。

企業理念に 「人」と「サービス」と「社会」という言葉が入っていない企業はほぼないですよね。きちんと今その理念がマーケティングの現場で実現できているのかと、自らに問うて頂きたい(笑)。


●怒ってますね(笑)。

怒り狂ってますね(笑)。だいぶ前のめりです。


●お話を伺っていると、一木さんの関わっているプロジェクトは大規模なものが多いのではないかという印象です。ベンチャーやスタートアップだとしがらみとか言ってたら潰れますから、社会的責任が大きい大企業ほど一木さんの怒りの種が大きいのではないかと思いました。

そうですね。規模が大きい分、社会に対しての影響も大きいですし、損失も大きいですから。


もう一度、組織へ。


●今後どうしていくと、マーケティングの環境はもっとよくなっていくでしょうか。

現在のマーケティングって、とにかくやることが多いですよね。だから分業しているわけですが。取得できるデータが非常に増えているのと同時に、扱えるテクノロジーもどんどん進化しているわけだから、以前と同じようなことだったら10分の1くらいの労力でできないかなと思うんです。もっとスマートにしていかなければいけないですよね。

それには、やはりツール・テクノロジーは無視できないと思っています。テクノロジーとハサミは使いようですね。僕も将来的には個人事業を辞めて、テクノロジーなり、ソリューションの会社に入りたいと思っています。


●テクノロジーはインプット次第でアウトプットが大きく変わってきます。これは私の持論ですが、テクノロジーが進化すればするほど、途中のプロセスはスマートになるけれども、ダメなものはダメさが拡大され、いいモノはもっと良くなっていく、という風に、差が拡がっていくのかなと。仕事をスマートにしていくための課題って何でしょうか。

仰る通り、ダメが増えているんですよ。単純作業はテクノロジーで賄うべきだなと思っていて、例えば駅の自動改札とかいいですよね。手で行っていたことがだいぶスマートになった。人にしかできないことをテクノロジーでやろうとするとややこしくなりますが、必要なのはああいうレベルだと思います。


●本当にそうですね。できたものを見て、なぜ起きているのか、次何しようと考えるのは人なんですが、それを出すための作業は必ずしも人ではなくていいんですよね。

そうです。それを履き違えると事故が起きます。特にベンダーさんは、自社サービスの差別化のための人がやった方が効率が良くてクリエイティブなものを、無理やりテクノロジーに置き換えようとして失敗している節をよく見かけます。


●電車における自動改札機がマーケティングにもあるんでしょうか。

データがあることによって見なくてもいいものというか、見えなかったからこそ感覚で突き進んでいたものが見えてしまっている。見るためのソリューションは多いのですが、それを収束するソリューションがあまりないですね。見えることの価値ももちろんあるんですが、収めることの価値もあります。

つまり、これからは「こういったツールなんです」というところからどう変化するかが重要なんですよね。DSPであれば新規、リターゲティング以外にもっと何かないの?というような進歩は常に考えていかなければいけないと思います。解析ツールであれば、ツールを売るんじゃなくて、こういう風に使うとこんな新しい価値が生み出されるんです、ということをお客様や市場に向き合って常に考えてビジネスにしていかなければいけないですよね。

自分が安全地帯からワーワー言っているのは自覚していますが、いつかは便利なものをスケーラブルに提供する側に戻りたいです。組織の中からの視野と、1回出て全体を見た上で戻ってからの視野は違うと思っているので、見える景色も1年前とはだいぶ変わりました。言いっ放しにする気はないので、そういう世の中を実現するために組織の中にまた戻っていきたいですね。


●本日は貴重なお話、ありがとうございました!



Tweak Marketing Co.

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AdMarkeTech.(アドマーケテック): 「立ち上がれ、現場!」といつも思っています。–Tweak Marketing 一木稔人氏:State of AdOps vol.17
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