SEM-LABOさんが書かれた「店舗型ビジネスのリスティング広告集客術、コンプリート版」という記事が店舗型の事業を営む企業のリスティング事情を考える上で非常に具体的で有用でしたので、それに便乗するかたちでスモールビジネス(以下SMB)について少し書きたいと思います。
SMBというのはいわゆる中小企業、とりわけ従業員が20人以下(サービス業だと5人以下)の小規模企業にあたると思います。日本の企業総数の9割弱が小規模企業になり、店舗型ビジネスの業種は多々あれど、大規模なチェーン展開を行う一部の企業以外は、その多くが中小企業か小規模企業にあたります。
SMBは概してマーケティングや広告宣伝にかける予算が少ないですし、専任の人員がいるケースは稀で、兼務でできるほど本業が暇だと倒れますので、いきおいこの方面への意識は希薄か、あってもなかなかうまくいかないというケースが多いのではないでしょうか。
SMBに広がるソーシャルメディア
先日、Search Engine Land に「Report: Social Media Spending Threatens To Overtake Paid Search Among SMBs(SMBのソーシャルメディア費用がリスティング広告費を追い抜くか)」という記事が出ていました。これはBorrell Associates というローカルビジネス向けのコンサルティング会社のレポートの紹介記事ですが、昨今のソーシャルメディアの隆盛とローカルビジネスの相性の良さを受けて、非常にソーシャルメディア推しの資料になっています。広告等の予算が少なく、足を運んでもらってはじめてビジネスが成立する店舗型ビジネスにとっては、知恵さえ絞れば比較的安価で集客できると思われるソーシャルに傾倒するのは仕方がないことかもしれません。
リンク:
Report: Social Media Spending Threatens To Overtake Paid Search Among SMBs
記事内のデータによると、2012年にどのオンライン広告に予算を割くかという質問で、ソーシャルメディアマーケティングは3位にきています。
# この設問がなぜ単一回答なのか謎ですが
しかしながら、レポート自体がソーシャル推しなので仕方ないにしても、データを見るかぎりは、メールマーケティングとリスティング広告はまだまだ熱いように思います。また、5位以降にもディスプレイ広告やモバイル広告などがあり、それらの多くがGoogle のAdWords を通じて出稿できることを考えると、ソーシャルメディアマーケティング(とりわけFacebook)だけを過度に持ち上げる前に、実際にSMBのマーケティングを行う上で、優先順位や予算配分はどうなっているのか一度立ち止まって考えた方がいいかもしれません。
AdWords と SMB
AdWords はその成り立ちとしてこれまで広告代理店やメディアに連絡をして買い付けるしかなかった広告をクレジットカード一枚で今日からかんたんに出稿できるものに変えてしまった張本人ということもあってもともとSMBとの相性はよいのですが、反面、広告に複雑さを持ち込み、運用をメディアから広告主側に移管させることに成功した張本人でもあるため、企業数の大部分を占めるSMBに広く浸透しているかというとまだまだだと言わざるを得ません。
一方で、開拓余地の多いSMBを攻略できるのもまた彼ら自身であるため、2010年4月に発表されたGoogle Places(旧:ローカルビジネスセンター) を皮切りに、サービスの拡充は年々ペースを上げています。ここ最近で目立っているのは以下です。
「AdWords Express (アドワーズ・エクスプレス)」はSMB向けのAdWords簡易版で、アカウント作成と同時にGoogle Places の情報も同時に生成できる仕様になっています。ローカルリスティングを増やすとともに、SMBの課題である運用の簡素化も同時に実現するようなサービスです。
「みんなのビジネスオンライン」は業種別にあらかじめ用意されたテンプレートをもとにウェブサイトを無料で作成できるサービスで、ドメイン取得、Eコマース、モバイル対応、アクセス解析ももれなくついてきます。運用もCMSなので簡単で、1年間の無料サポートつきという恐るべき内容です。案の定AdWordsのクーポン券がセットでついてきます。
広告を簡易化し、ウェブサイトも作ったからといって、企業が勝手に広告を始めてくれるとは限りません。Google はこれまで新規の営業チャネルを(マーケティング以外は)広告代理店に依存してきたといっても過言ではないですが、影響力のある広告代理店の多くが首都圏か京阪神に固まっているため、その影響力の及びにくかった地方や、広告予算が少なく営業が及ばなかった(もしくはけんもほろろだった)SMBへの営業を奨励するため、「オープンビジネスパートナー」という制度で中間事業者のバックアップを行なっています。
SMB とリスティング広告
それぞれの企業がどのようにリスティング広告を活用すればいいのかは冒頭で言及したSEM-LABOさんの「店舗型ビジネスのリスティング広告集客術、コンプリート版」をもとに各企業が自らのやり方を見つけていくことになりますが、ここでも冒頭の「SMBは概してマーケティングや広告宣伝にかける予算が少ないですし、専任の人員がいるケースは稀で、兼務でできるほど本業が暇だと倒れ」るという問題に戻ります。
広告代理店が企業数の多いSMBより絶対数の少ない大企業ばかり相手に仕事をするのは、広告の取引が媒体の掲載費に対して料率でマージンが発生するコミッションモデルであり、絶対額が大きいほど利益が大きくなるからです。仮に掲載費が5万円だとするとそのマージンでは担当者の人件費すら出ず、移動が多ければ交通費すら出ないということになってしまいます。
もちろんそういった問題に対処するために地方や海外に運用の子会社をつくったり内部のBPRを行ったりして固定費をギリギリまで下げて運営している会社もありますが、SEM-LABOさんの記事を見ても分かるとおり、規模が小さくても企画や運用の手間はあまり変わりませんし、むしろ規模が小さいからこそビジネスへのインパクトが大きく、工夫しなければならないことが多いと思います。SMBサイドからみれば最低限のサポートでは結果は出ないと思うでしょうし、広告代理店からすると手間をかけすぎると赤字になってしまうという、なんとも難しい綱引きがずっと繰り返されることになります。
リスティング広告は店舗型ビジネスにとってはクーポンや口コミサイトより優先順位は低いことが多いと思います。それに、今のお客さまにリピートしてもらい、アップセルしていくことの方が広告より大事なのは言うまでもありません。どの企業にも当てはまる最適解はない一方で、一つでも多くの企業が現在の(ある種恵まれた)オンラインプロモーションの環境を生かし、ビジネスを少しでも成長させてくれればいいなあと思っています。
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