LUMA Partners の創設者が、カオスマップ(LUMAscape)を発表した理由



カオスマップとLUMA Partners

アドテクノロジーの文脈でこれまでに数多くの言及がされており、インターネット広告や広告技術に少しでも関わったことがある方ならば誰でも見たことがあるのが「カオスマップ」です。

「カオスマップ」は、2010年に LUMA Partners が作成した業界地図「LUMAscape」のうちの一つで、ディスプレイ広告の業界地図を表したものです。他にもソーシャルや検索、Eコマースなどいくつも LUMAscape があるのですが、ディスプレイ広告のスライドがその複雑さゆえに話題になり、LUMAscape といえばほぼディスプレイ広告のカオスマップのことを指すほど有名になりました。

※ちなみに、この LUMAscape についてはスケールアウトの菅原さんが MarkeZine に寄稿した解説記事「ディスプレイ広告領域のカオスマップ、きちんと読めますか?」が数あるカオスマップ系記事の中でも白眉ですので、未読の方はぜひご一読下さい。


一方で、LUMAscape のディスプレイカオスマップ(Display LUMAscape)のことは知っていても、このスライドを作成した LUMA Partners がどんな会社で、何を意図してこのスライドを作成したのか、知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。

そこで、今回はデジタル広告オペレーションについて常に良記事を送り出しているメディアAdMonstersに2013年3月に掲載された、LUMA Partners の創設者である Kawaja氏についての解説記事 "Know Kawaja, Know LUMAscapes"(Kawaja氏を、そして LUMAscape を知る)を紹介してみたいと思います。

以下は、AdMonsters の承諾を得て同記事を抄訳したものです。Terry Kawaja氏は何者で、どのような意図でカオスマップを作ったのか、アドテクノロジーの分野で広く人口に膾炙しているカオスマップを改めて理解するための一助になれば幸いです。



Original source:
Know Kawaja, Know LUMAscapes
http://www.admonsters.com/blog/terry-kawaja-lumascapes




Kawaja氏と、LUMAscapeを知る


「ここからは徐々に落ち着いてくると思います。」と LUMA Partners の創設者であり CEO のTerry Kawaja氏は言いました。「ただし、このうち10カテゴリは、絶えず更新されていきますが。」

たくさんの企業ロゴが詰め込まれ、「DSP」「DMP」「SSP」などとカテゴライズされた概念図である LUMAscape は、ディスプレイ、検索、動画、モバイル、ソーシャルなどなど…多くのチャネルそれぞれに存在します。LUMAscape に記載された矢印は、広告がそれぞれのカテゴリをどのように経由して広告主から媒体社へ届くのかがわかるようになっています。広告主から媒体社というのは、言い換えればマーケターから消費者へ、開発者からユーザーへということです。

「単に話題になっているだけに過ぎません。」 Kawaja氏はスライドシェアの数字を見てそうコメントしました。2013年3月のある1週間で LUMAscape(ディスプレイの LUMAscape 以外も含む)は、のべ9,300回の表示もしくはダウンロードがありましたが、これは、アメリカだけの盛り上がりではなく世界的な現象です。それは、同年3月のある2日間でスライドシェアに36カ国からのアクセス(計116カ国)があることからも証明されています。また、同スライドにはこれまでに7つの書籍から掲載許可依頼が届いたほか、実に多くの白書や資料に引用されてきています。

LUMAscape は、今ではデジタルメディアの収益化の未来について議論する際にはなくてはならないものになりました。LUMAscape の設計者の一人であるAmanda Bicofsky氏は2013年4月(※)にニューヨークで行われるAdMonsterのカンファレンスで、この企業ロゴが敷き詰められた概念図の分析が、モバイルの伸長、コンテンツとコマースの結合、プログラマティックトレーディングの安定化など、昨今の業界トレンド対していかに鋭い洞察を与えるのか、キーノートとして発表する予定です。(※訳者注:元記事は2013年3月に発表されました)

一方で、LUMAscape の精巧な概念図は、多くの混乱をもまた生み出しています。この概念図は多くの参照と同時に多くの批判を連れてきます。代表的な批判の一つが、一つのプレイヤーがある一つのチャネル(カテゴリ)にそれぞれ配置されその役割のみを担っているという表現手法は、デジタルメディアの発展を実際以上に複雑に表現しているのではないか、というものです。そういった背景から、2013年の2月には、IABが自らアドテクノロジーの構成図を発表し、「デジタル広告のエコシステムが銀行家の手によって自分勝手で過剰なまでに複雑に表現されたことによって、広告主や代理店、マーケターは損害を被っている」とコメントしています。

このIABのコメントに対してKawaja氏は、「シンプルにすべての企業を記録しているだけなのに、どうして過剰に複雑化していることになるのだろう?」 と含み笑いをしながらコメントしました。

彼は続けます。「LUMAscape が完璧ではないことをあらかじめことわっておきます。我々はすべての企業をどこかのタイプに分類することも、それぞれの違いを正確に表現することもできません。あくまでこれは現状の描写でしかありません。」

LUMAscape がデジタル広告業界でどのような役割を担うのかを理解するためには、元々なぜこれが制作されたのかを理解する必要があります。LUMAscape は、細分化されたエコシステム中でそれぞれの企業がどの位置にいるのかを理解するための技術系スタートアップ向けガイダンスとして作られたのではなく、M&Aを画策する経営企画担当者向けに作られたドキュメントだということです。


ダイナミックな銀行家、Kawaja

「以前、私は思い出すだに悲惨な銀行家でした。過去50年間大きな変化が何もなかった石油や天然ガスなどのパイプライン分野に従事していたからです。本当に、当時は退屈でした。」

成熟した世界であるウォール街は、業界から業界へ渡り歩くゼネラリストはふんだんに輩出しても、Kawaja氏自身が描いていたようなアクティブな世界ではありませんでした。彼は1989年にソロモン・ブラザーズで通信系業界やメディア業界の担当を始めたときに、通信は旧態依然としたお固い業界、メディアは起業家のひしめくダイナミックな業界ということをすぐに理解しました。メディア業界は、のちに伝説となるような会社が、多くの優秀なビジネスパーソンたちによって経営されていたのです。

「メディアはとてもダイナミックな業界で、たくさんの優秀な人材がひしめいていました。そして、お固い分野よりも、動きの早い分野の方が私の性に合っていましたし、動きの早い分野では、特定の分野への深い知識こそが、銀行家として仕事をするために必要だったのです。」

メディアは確かに常に流動的に変化する業界でした。特に90年代にはメディア・放送業界の革命によってM&Aの嵐が吹き荒れました。例えば、Kawaja氏は主に16あったイギリスのケーブルテレビの統廃合や買収案件のほとんどにあたる、14の案件に関わっています。

このような大きな変革期での経験を経て、Kawaja氏は2003年にデジタルの分野に目を向けはじめました。これがのちの LUMAscape へとつながります。複雑を極めるデジタル分野のエコシステムを描写するために、誰が見ても「百聞は一見に如かず」と分かるような、現在の LUMAscape の青写真を2005年には既に描いていました。当時はまだ私的なものに過ぎませんでしたが、2009年には当時 Kawaja氏がデジタルメディア部門長を務めていたM&Aアドバイザリーグループの GCA savvian の内部で共有され、その年の10月には外部にも公開されました。

2010年5月、IAB の主催する Ad Networks and Exchanges conference のキーノートで、LUMAscape はひっそりとデビューしました。Kawaja氏は一夜にしてデジタル広告業界の道先案内人として知られることとなり、スライドシェアではこのプレゼンテーションが通算75,000回以上も表示もしくはダウンロードされています。

なお、この時点で Kawaja氏はデジタル画像の輝度を表す単位(luma)から着想を得た、LUMA Partners を設立しています。



売るのではなく、買われる

LUMA Partners のウェブサイトには、ある率直な表現の記載があります。「我々は、会社が買われる(get bought)のをお手伝いします。」

「よい企業ほど、売るのではなく、買われるものです」と Kawaja氏は言います。「売るのはかんたんです。銀行家を雇い、書類を書いて、競売に出せばいいのです。投資銀行がM&Aで使う典型的なアプローチです。」

非常に動きが早く進化し続けるデジタル技術の世界では、このような供給型のアプローチは有害となります。デジタル系企業がもっとも嫌がるのは売りに出されることです。大きな可能性を前にして会社を売らなければいけないということは、ギブアップと同義でしょう。

デジタルの進化によって、彼は投資銀行家がこの新しい分野でM&Aを行うにあたって仲買人としてどのような成長が求められるかを知りました。つまり、買収に積極的な企業への(供給型ではなく)需要型のアプローチです。

大型買収を行なった、IBM、Google、Oracle のような企業に行けば、戦略系の部署には大抵 LUMAscape が壁に貼ってあります。これこそが、LUMAscape を作成した目的です。

Kawaja氏は LUMA Partners の仲介プロセスとして3方向からのアプローチを提唱しています。最初のアプローチは、「深く潜ること」です。現在の市場のプレイヤーを知り、根底にある技術を知り、それぞれが何を欲しているか、その原理原則を知ることです。具体的には、大企業が未来のトレンドをどう捉え、どういった準備や投資をするつもりなのか、考えを及ばせることです。

次に、「デマンドサイドの内部を知ること」です。マーケターが使う広告費だけではなく、それを助ける企業の戦略について知ることです。そういった企業は何を考えているのか、次にどうしたいのかを考察することで、LUMA Partners は企業間のポテンシャルマッチングを見つけ出すことができる業界になくてはならない第三者機関へと成長しました。

最後に、LUMA Partners は「M&Aのプロセスを生業としている」ということです。「売り手は、売りに出す前に出口戦略を考えます。そして、うまくいっている独立系企業にこそ、大きな企業は興味を示すものです。」

この3つのアプローチが効果的であることの証左として、換言すれば LUMA Partners が大きなアドテク系の買収ディールにおいて中心的な役割を担っている事例として、2012年の Donovan Data Systems と MediaBank の統合や、2011年の Google の Admeld 買収、Adobe の Demdex の買収などが挙げられます。


LUMAscape を眺めてみる

LUMA Partners のアプローチを考える上で、大事なのが概念図が Strategic Buyers です。


これは、これまでのチャートとはあまり似ていません。150のデジタル業界の買収元企業がそれぞれのタイプ別に四象限(テクノロジー、ネットワーク/コマース、マーケティング、メディア)に分けられています。マーケティングとメディアはディフェンシブに分類され、業界の混乱や構造変化への対応として買収を敢行します。テクノロジーとネットワーク/コマースはオフェンシブに分類され、新しい分野に挑戦するために買収します。図の真ん中はこのチャートの中心となる企業で、Google と Microsoft がオフェンシブに、Yahoo! と AOL がディフェンシブに位置しています。

このチャートはこれまでの概念図と同様に複雑怪奇ですが、今まさに迫りつつある各企業の統廃合という特定の目的に絞って作られています。Kawaja氏の言葉を借りれば、これは「LUMAscape版モグラたたき」です。2012年と2010年の Display LUMAscape を比べてみると、53社が買収され、74社が新たにチャートに現れました。まさにモグラたたきのような忙しさです。

LUMAscape の掲載基準は 5,000万ドル(約50億円)以上の売上高が設定されています。そのことについて「LUMAscape を、みなさんが観ているような見方では私は見ることができません。」と Kawaja氏は語ります。

「すべての企業を網羅することは到底できません。この概念図は、シンプルに、エコシステムがどのように働いているかを理解するという目的が根底にあり、そのために作られています。ご理解のうえご覧いただければ幸いです。」


※本記事はAdMonstersの承諾を得て "Know Kawaja, Know LUMAscapes" を抄訳したものです。
 
 

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LUMA Partners の創設者が、カオスマップ(LUMAscape)を発表した理由
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