成果を出すためには、エンドレスで勉強です −アンダス 平野裕亮氏 #State-of-AdOps Vol.11


「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。

※過去の記事はこちらから。

第11回目は、福岡の雄、アンダス株式会社でSEMユニットリーダーを務め、ご自身でも「でぶててのWEB録」という人気ブログを運営していらっしゃる平野裕亮(ひらの ゆうすけ)さんに、運用型広告の現状や今後の展望について、忌憚のないお話をお聞きしました。


# インタビューは 2014年7月某日に行われました。



アウトプットしないと、追いつけないと思った。


●まずは、平野さんが現在のお仕事に就かれるまでの経緯と具体的な業務内容を教えて下さい。

新卒は広告代理店の福岡支社でリスティング広告を運用していたんですが、当時は音楽が仕事の中心で、平日の仕事が副業というような感覚でやっていました(笑)。ですので、リスティングは始めて1年くらいで辞めてしまって、その後はコールセンター、居酒屋、ウェブ制作など、様々なアルバイトを掛け持ちしながらライブをするような毎日でした。結婚やフェス出演を機にそろそろ地に足をつけていきたいと思い、アンダス株式会社に入社し、現在は SEMユニットリーダーとして働いています。

SEMユニットは発足してから3年目なのですが、それ以前は SEM に特化したチームは社内に存在しておらず、プランナーが SEM に関わる仕事をそれぞれ兼任しながら仕事を進めていました。

私は SEM の専任としては第一号なんですが、もともと SEM を強化するためにチームが発足したわけではなく、弊社のクライアント様で電話番号でのコンバージョン計測をかなり強化されている企業様がいらっしゃるのですが、そこで弊社のシステムと先方のシステムとをつなぎあわせて計測するというプロジェクトの中で、技術面や広告運用面の専任チームを作る必要性が出てきたため、それが巡り巡って現在のかたちになっています。

以前から電話番号計測は仕組みとしてありましたが、多い場合は1社で200番号程度あるので、計測の全体設計が非常に重要になります。それを体系化していく作業は、現在メインの業務であるリスティング広告のノウハウと通じるところがあると思っています。


●非常にユニークな経験で、もっとお聞きしたいですが…(笑)。ちなみにブログも書かれていらっしゃいます

ブログ「でぶててのWEB録」を始めたのは2012年の5月です。SEM に関する記事は当時どんどん増えていましたが、電話計測やタグマネジメントに関する記事は少なかったので、自分でも何か書けないかなと思って始めました。

あとは、個人的な理由としては、SEM-LABO の阿部さんをはじめ、SEM のトッププレイヤー達に追い付きたいと思ったら、とにかくアウトプットするしかないと考えたことですね。

また、会社としても、アンダスは社長である前田がワントップのように見られていますので、もっと会社として厚みがあることを見せたいと思った時に、ブログは一つのきっかけになるかもしれないと思ったのもあります。こっそり書いてあとで自慢しようと思ったら、会社の人たちにはすぐに見つかってしまったのですが(笑)。

最近では、ブログを通じて知ってくださる方も増えてきて、非常に有り難いと思っています。


電話計測に合わせたアカウント設計もある。


●SEMユニットの体制や、特徴などはありますでしょうか?

私自身が得意だからというのもありますが、必要なノウハウ等をまとめてチーム内で共有するようにしています。新しい手法やチャネル等がどんどん出てくる分野ですし、データをつなげて分析することも多く、施策自体が複雑化しやすいので、放っておくとどうしても混沌としてきてしまいます。ですので、品質を管理し、事故を防ぐために、情報を整理することを心がけています。

先ほど少し触れた電話計測の件でも、情報を整理することがそのままアカウント構築のルールづくりに繋がっていきます。


●具体的にどんなルールがあるのでしょうか?

例えば、リスティング広告で、似た意味の部分一致キーワードが別々の広告グループに入っていると、ある特定のクエリがそれぞれのキーワードで表示されてしまう、という問題が発生すると思います。

電話計測を密にやろうとすると、重要なクエリが複数あるアカウントではクエリと電話番号を合わせないといけないという状況が発生するのですが、通常のアカウント構成だとどうしてもクエリと電話番号の組み合わせを精緻に実装するのは難しいため、それぞれの導線を整理するために、1広告グループ1キーワードで構築するようにしています。

これは一見負荷の大きいアカウントのように思われますが、検索クエリを見なくても検索クエリが分かる構成になっているので、精緻な電話計測が必要なアカウントにとっては実はリーズナブルな構成です。もし電話計測がなかったらこういう発想にはならなかったように思います。

同じようなことは電話計測以外でも言えまして、Google Analytics と繋げたときに分析しやすい構成だとか、データをダウンロードした後にそのままVBですぐに加工できる配列にしておくとか、とにかく業務フローが整理して効果と効率を両立できるように工夫を続けています。


●電話番号計測仕組みは通販大国の九州ならではの取り組みなのでしょうか?

他の企業さんのことは分からないのですが、弊社の特徴であるとは思います。

弊社はSEMユニットができる前からシステムと制作とプランナーの三位一体でお客さまと取り組むようにしていたので、電話計測の仕組みをリスティング広告の仕組みに組み込んでいくことは比較的やりやすかったです。この三者が一体にならないと、CPA の改善はできないと思っていますので。

現在はスマイルツールズ(SmileTools)というツールがありますので、 健康食品や通信販売のお客さまが多いのは確かですね。




制作者に制作をしてもらうためのタグマネジメント


●システムや制作の方々と一体で動けるのは強みですね。

そうですね。弊社は Google Analytics などのアクセス解析ツールや、各種のタグをまとめるタグマネジメントの導入を必須にしているのですが、それはシステムや制作を一緒に仕事をすることと密接な関わりがあります。

SEMユニットの業務領域は他のリスティング広告を提供する広告代理店さんとほとんど同じだと思いますが、タグマネジメントはもともと制作者やシステム担当者のために導入を進めました。

誤解を恐れずに言えば、タグの設定作業は、何も生みません。誰でもできますし、クリエイティブな仕事とは言えないと思います。お客さまの利益を引き上げることができるクリエイティブを作れる製作者が、タグの設定に忙殺されるというもったいない状況を何とかしたかったので、タグマネジメントの導入は必須にしています。現在は GTM(Google Tag Manager)と YTM(Yahoo!タグマネージャー)を入れていますね。


●実際に製作者の時間配分は変わったのでしょうか?

体感としてかなり変わったと思います。広告を設計・運用するSEMユニットでタグが管理できるようになったので、制作はタグ関連の作業に関わることなく、本来のクリエイティブな仕事に時間を割けるようになっています。

これは、制作の機能が社内にあるからこそ気付けたことです。「タグの設定面倒くさい!」という声が目の前で聞こえるわけですから(笑)。

同じ意味で、システムに詳しい人が社内にいるのも大きいです。「このデータがおかしい」といったケースがあれば、詳細に調べてくれるので原因の発見までのタイムラグも短いです。三位一体であることの強みだと思っています。


●タグマネジメントを行う上で気をつけていることは?

例えば jQuery を使っている時に GTM だと変な動きをしたりとか、気をつけないといけないことがあるので、YTM と併用したりチェックリストを作成するなど、それぞれどう管理するのかを平準化するようにしています。あとからタグの中身を変えたいとか、追加したい、管理者が変わったといった状況になっても、タグマネジメントさえしっかりできていれば、お客さまに迷惑がかかることはありませんので。

そういう意味では、タグマネジメントは本来お客さま側で管理すべきなんだと思います。現時点では YTM が Yahoo! のプロモーション広告アカウントと紐付いているという事情があるので広告代理店が管理しているだけで、責任や安全性の観点からはお客さま自身で管理された方が、責任の明確化や安全性の観点からも望ましいのかなと思います。


●自身で管理されている広告主さんはいらっしゃいますか?

実際はほとんどいらっしゃらないのが現状です。ですので、サービス導入の際はメリットだけでなく、リスクもしっかりお伝えしてご理解頂いてから導入するようにしています。

もちろんメリットが明確でないと稟議が上げにくいとか、現場のご担当者ならではの悩みもあるので、「アフィリエイトの重複コンバージョンのチェックが楽になりますよ」ですとか「タグのメンテナンスでかかっていた制作費がなくなりますよ」といった既にかかっている工数に換算してお伝えすることはあります。


固定費より、データが見えないことがリスク


●先ほどの電話計測(コールトラッキング)の話ももう少しだけお聞きできればと思いますが、かなり沢山の番号を管理されているとお聞きしました。

はい、もともと回線業者さんからご相談があってスタートした話なのですが、あれよあれよと番号が増え、今では発行しているだけで1,000番号くらいあると思います。一番使っている企業さんは、広告を新たに作る場合は必ず電話番号を振るようになっています。

例えば、チラシのような紙媒体、提携先のウェブサイト、検索連動型広告、ディスプレイの媒体やターゲティング別、メールマガジン、アフィリエイトなど、電話番号一つ一つが広告媒体を識別するフラグのようなイメージです。

電話番号にはもちろん固定費がかかりますが、データが見えないほうがリスクです。お客さまも電話でのコンバージョンがメインの業種が多いので、運用には必要なコストだとご理解されています。計測ができていなければ、効果を改善する施策がそもそも打てなくなりますので。


●具体的にはどのように管理されているのでしょうか?

コールトラッキングは弊社の LPO のシステム( aLPO: 非公開 )と紐付いているので、例えば検索連動型広告でキーワードごとに番号を出し分ける場合は、ウェブサイト側で電話番号を動的に出し分けるようにシステムと連動しています。もともとLPOツールとして開発したものを電話番号に対応できるようにカスタマイズしていったものです。

最近も開発は進めていまして、これまでは架電の実績をデータベース化したものを広告の実績とマージしてレポートとして出力していましたが、今ではタグマネジメントと連動して広告の管理画面で電話番号の CPA まで見れるようにしています。それによって、電話番号をタップした回数と、実際に架電が発生した回数の差分なども把握できるようになりました。


●そこまで徹底されている事例はあまり聞いたことがないですね。

先ほどのタグマネジメントの話と同じで、システムを内製しているからこそ実現可能だったんだと思います。あとは、運用にちゃんと落とし込めたことですね。

個人的には、現職に就くまでの コールセンター 居酒屋、フリーランスでのウェブ制作それぞれの経験が役に立っています。特に、コールトラッキングは回線系のお客さまで実施していますので、コールセンター内部のオペレーションを把握していますので、非常に役に立ちました。現場用語で通じますし(笑)。偶然の産物ですが、経験って繋がるものだなあと思っています。

コールトラッキングはオフラインとオンラインをつなげる施策でもあるので、今後はセミナー(※ページ下部に詳細)などで伝えていく活動もしていきたいと考えています。



面白がることと、それを伝えること。


●では話題を変えて、普段の広告運用のお仕事で心がけていることなどがあれば教えて下さい。

「効率化」は心がけています。例えば一日5分効率化できたとすると、一週間で25分、一ヶ月で約2時間浮くことになります。2時間あれば、売上を上げる活動に時間を割くことができます。

究極は自分の1秒あたりの売上をどうやって上げていくか、ということなのかなと思っています。だからこそ効率化にこだわって、多少時間がかかっても効率化のための VB を組み上げる、といった作業には積極的に取り組むようにしています。同じ仕事を3回するのであればシステム化するという会社さんがいると聞いたことがあるのですが、いい発想だなと思って意識するようにしています。

日本は人口も減っていきますし、労働効率を上げないとどんどん忙しくなって生産性が落ちます。毎晩深夜まで残業して、プライベートを犠牲にしてまで働くべきではないと思っているので、とにかく「効率化」はみんなで幸せになるためのキーワードです。


●今後の展望などがあればぜひ教えて下さい。

現在取り組んでいる領域は SEM なのですが、SEM って一体どこまでやるのか?と考えることがあります。Yahoo!プロモーション広告でTwitterプロモ商品が出せるようになるけど、それって誰が担当するのだろう?といったように、広告を運用する担当者が携わる領域がどんどん拡がってきています。

どこまで拡げなくちゃいけないんだろうかと考えると、もちろん全部やりたいんですが(笑)。検索だけで済むわけではないですし、とにかく勉強すべき領域が広いですよね。

一方で、経営としては媒体費の 20% マージンの中で利益を出さなければいけないという現実もありますので、利益と管理費のせめぎ合いです。


●そのあたりって、企業や個人のフェーズによって解は変わると思いますが、平野さんとしての現時点での回答ってありますか?

私の仕事はお客さまの売上をあげることなので、そのための手段として今 SEM をやっているだけだと思えば、引き出しは沢山持っておくに越したことはないと思います。A がダメなら B も C もあるという状態にして、とにかくフットワーク軽くお客さまに必要なものを見極めていけるように頑張ります。だから、エンドレスで勉強です。

あとは、これはどんな仕事にも言えると思いますが、運用はなかなか大変な仕事なので、「いかに面白がれるか」も大事だと思います。今日は100件コンバージョンがありましたという時に、ただ漫然と「100件だ」と思うのか、「一体どこが良かったのだろう?どこから来たのだろう?」と思うのは、大きな違いです。数字だけ見ていても面白くないですから。

やれることが多くなって現場は混乱しがちですが、運用型というのは数字が見えやすくなって、施策がやりやすくなっただけだと思っているので、自分自身がそれを面白がって、面白さを伝えていけるようになりたいですね。


●本日は貴重なお話、ありがとうございました!


アンダス株式会社

※セミナー情報
9月3日(水)にセミナーが行われるそうです!
詳しくはこちら → http://andus.co.jp/seminar/
※受付は終了しました(2014年8月31日)

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成果を出すためには、エンドレスで勉強です −アンダス 平野裕亮氏 #State-of-AdOps Vol.11
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