広告ビジネスを急成長させるAmazon、Googleショッピングとの複雑な関係



急成長するAmazonの広告ビジネス、牽引役はAMS

Amazonが広告ビジネスを加速させていることは周知の事実ですが、その凄まじい成長率は、近年広告分野で Duoploly(2つの寡占企業)と呼ばれている Google と Facebook を脅かす存在になると言われています。

2018年4月26日(日本時間では4月27日)に発表された Amazon の2018年第1四半期の広告売上高は、初めて20億ドル(約2,160億円)を超えたようです。

参考:Amazon advertising is now a multibillion-dollar business

Amazonは広告収益の内訳を公開していませんが、セグメント別では「Other(その他)」の中の大半が広告売上だと言われており、その「Other」は2017年比で139%増(約2.4倍)という驚異的な成長率になっています。調査会社の eMarketer は「2020年には Google、Facebook に次ぐ3番目に大きな広告ビジネスを担う企業になる」と Amazon を評していますが、確かにそう予想するのも頷ける実績です。

成長の牽引役の一つは、セルフサービスのAmazon内広告商品であるAMS(Amazon Marketing Services)です。日本でも利用する広告主が急激に増えています。

Merkleのレポートによると、AMSの持つ3つの商品(スポンサープロダクト広告、商品ディスプレイ広告、ヘッドライン検索広告)のうち、スポンサープロダクト広告が圧倒的なシェアを誇り、かつ成長率は前年比約2倍(96%増)と、急速に増加しています。(ヘッドライン検索広告も90%増)




客であり、敵である:Googleショッピング広告の停止と再開

AMSの急成長により、今やEコマースの有料集客における2大巨頭は Google と Amazon だと言われていますが、Google にとってみると、Amazonは広告主として上客であり、商品広告では最大のライバルという、複雑な関係でもあります。

参考:ショッピング広告の安定成長と、アマゾンAMSの急伸 〜Eコマース向け運用型広告は2強時代へ

もちろん、両者はクラウドビジネスにおける GCP(Google Cloud Platform) と AWS(Amazon Web Services) のように、広告以外にも多方面で競合していますが、広告ビジネスは Google の収益の最も大きな部分を占めるため、深刻度は他のビジネスより大きいのは間違いないでしょう。

そのあたりの事情は Amazon にとっても似たようなもので、Amazon は AdWords の開始以来、Google にとっての最大の顧客の一つでありながら、Google の商品広告である「Google ショッピング広告」には、これまで微妙な態度を示してきました。


2014年頃まではまったく利用せず

以下は2014年に AdGooroo が発表したチャートですが、Amazon はEコマース事業者の広告費ランキングにおいて第3位にありながら、Googleのショッピング広告(表中では「PLA」)には1ドルも支出していないことが分かります。

Source:Top Paid Search Advertisers Spent 63% of Budget on Product Listing Ads | AdGooroo

2014年の時点ですら、上位のEコマース事業者は広告費の過半をショッピング広告に割り当てていますが、Amazonはそのトレンドを知りながら(知らないはずがありません)、敢えて通常の検索連動型広告のみを出稿するという判断を採っていました。

その理由について、当時は、

「Amazon がショッピング広告(当時の呼称はPLA:Product Listing Ads)を利用していない理由は、Google のショッピング広告が Amazon の商品検索広告 と完全に競合するため、マーチャントセンターにデータを開示することに難色を示しているからだ」

と言われていました。2014年に書いた以下の記事でも、そのようにコメントしています。(※ただ、当時でもフランスなどのヨーロッパの一部の国では既に Amazon はショッピング広告を利用していたようです)

参考:ショッピング向けAdSenseが拡げる、商品リスト広告(PLA)の可能性


2016年末、北米でも開始へ

ところが、2016年のホリデーシーズンを期に、Amazon は Googleショッピング広告の利用に舵を切ります。

参考:Amazon begins testing Product Listing Ads on AdWords - Search Engine Land

このときの北米のEコマース事業者の反応はなかなかのもので、「CPCが上がる!」「Amazonが扱っていない分野で勝負しろ!」「いや、むしろプライム強化でAmazonに寄り添え!」と、戦々恐々としていたのを思い出します。

Amazon の扱うカテゴリは広大なため、Googleショッピング広告の在庫カバレッジにも一定の寄与があったと考えられます。実際、Merkle は「2017年に、Amazon は Googleの広告に5,000万ドルを費やした」と推定しており、特に General Home Goods(家庭用製品)のカテゴリでのインプレッションシェアは平均で40%以上になっていたと推定されるため、その影響力はかなり大きかったものと思われます。

According to Merkle's estimates, Amazon spent $50 million on product-listing ads in 2017.
参考:One of Google's biggest spenders sees hole in Amazon's ad business - Business Insider


そして2018年4月、突然の停止

北米での広告開始から約1年半、Googleショッピング広告での Amazon の存在感はどんどん増していましたが(日本でもよく出ていました)、2018年4月26日の第1四半期の実績発表の直後、Amazonは突如、Googleショッピング広告の配信を停止しています。



Amazon がGoogleのショッピング広告を停止していることを最初にレポートしたのは Merkle で(上記の記事)、その後 Bloomberg などがニュースとして追認しています。

Amazonリターゲティング広告のテストか

この突然の停止は様々な憶測を呼びましたが、その憶測の1つが、「Amazon は Google や Criteo を脅かすような商品リターゲティング広告をテストしている」というものです。

参考:Amazon Tests Ad Tool That Rivals Google, Criteo - Bloomberg

Amazonに商品を出しているマーチャントに対して、広告商品のテストを呼びかける案内が出回っていることがその証拠とのことで、その案内によると、サードパーティ(Amazonの外側)のウェブサイトやアプリ対してリターゲティング広告が出せるとのこと。

現在でも AAP では似たようなことが行われているはずですし、Google や Criteo を通じてユーザーは既に同様の広告体験をしていることを考えると、これは Amazon による自社広告プラットフォームの拡大宣言だと言えるでしょう。セルフサーブ型の広告が急速に伸びている事実からも、セグメント機能である Advertiser Audiences を活用して、既存の広告製品リソースを集約していくためのフラッグシップ的な商品に育てていくのかもしれません。

Amazon と連携するウェブサイトやアプリ、アドネットワークの詳細は明らかにされていませんが、ディスプレイネットワークには Google や Facebook、Criteo に一日の長があるものの、Amazon は CPC が高騰しているGoogleショッピング広告と比べると平均CPCが安く、一般に CVR(コンバージョン率)が高いという強みがあるため、外部パートナーのリクルーティングにも発揮されるのではないかと思います。Amazonアソシエイトの素地もあることですし。

そんな中、Googleのショッピング広告が再開?

Amazon の Googleショッピング広告の停止が確認されてから約2週間後の2018年5月16日、Merkleは、Amazon の Googleショッピング広告が再度表示されていることを報じています。ええー。

参考:Amazon Reappears in Google Shopping Results After Brief Exit | Blog | Merkle

これにより、Amazon が Googleショッピング広告をどう捉えているのかは「正直よく分からない」という空気になっています。Amazon が Google や Criteo と競合するような動的リターゲティング広告を進めていくのはおそらく既定路線だと思われるものの、これが今回の停止や再開とどう関係しているのか、その理由を予測することは困難だという判断です。

Merkleによれば、Amazon は2018年の2月をピークに徐々に Googleショッピング広告の配信量を引き下げていたということなので、今回の再開が以前と同じ規模まで回復するという確証は持てません。ただ1つだけ分かっているのは、Amazon の広告参加の多寡によって、Amazon の持つカテゴリと競合する他の広告主(つまりほとんどのEコマース事業者)は、自身の広告パフォーマンスに影響が出るということでしょう。それほど、強い影響力があります。

Eコマース事業者にとって、Amazonは強力な集客装置でもあり、また自社のショッピングサイトに対する最も分かりやすい脅威でもあります。Google と Amazon、それぞれのシェア争いは、両者の狭間で生きる小売企業にとって、今後もしばらく目が離せないものになるのは間違いなさそうです。

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