レスポンシブ検索広告と拡張テキスト広告
2018年5月の発表以来、レスポンシブ検索広告(以下:RSA)は多くの記事やコミュニティで有用性や活用方法が議論されています。(2019年7月の時点でまだベータ版ですが、近い将来本番化すると思います)
中でも、既存の拡張テキスト広告(以下:ETA)と RSA の比較は、かなり頻繁に議論されてきた印象があります。よく言われるのが 「RSA は ETA と比較して クリック率が高い/低い」というものです。
ただ、先に結論というか個人的見解を書くと、RSA と ETA は補完関係にあります。補完関係にあるものは、比較して優劣を競うのではなく、よりよい共存を模索したほうが生産的な試みになるはずです。
In fact, Google recommends that you keep running at least one ETA in each ad group alongside your new Responsive Search Ads.
(実際、Googleはレスポンシブ検索広告と並行して各広告グループに最低1つの拡張テキスト広告を継続するように勧めています)
- Google Responsive Search Ads: 13 Facts & Best Practices You Need to Know | WordStream
上記のような注意書きが多くの記事で書かれていることからも、両者は併存することを前提にして(あるいは併用を推奨しても機能するように)設計されています。
一方で、広告の結果として厳然と目の前でクリック率やコンバージョン数に差が出ている以上、同じテキスト広告ですし、比較したくなるのも人情です。比較の誘惑から逃れ、よりよい共存を模索するために、何が必要なのでしょうか。以下で、そのことを少し考えてみたいと思います。
※RSA の仕様については→こちら
拾うクエリを増やすために
潜在的な(見えない)機会損失は、その損失の度合いが視認できないだけに、影響を過小評価しやすいものです。
Google によると、毎日の検索の約15%に新しい言葉が含まれているそうです。広告の観点からは、その変化し続けるユーザーの検索クエリに対してオークションに参加するかどうかは、キーワードの適合性や広告の関連性に加え、デバイス、地域、言語、履歴など、さまざまな変数が影響していますが、広告の設定が厳格であればあるほど、広告が表示されないという潜在的な機会損失は(クエリの種類が増える分だけ)時間の経過とともに増え続けてしまいます。
検索エンジンという、ある種有史以来最大ともいえるマッチングシステムは、ユーザーと広告とのマッチング精度の高さによって収益を得ていますので、このマッチングを促進し、見えない機会損失を最小化することがビジネスの継続においての至上命題になります。
広告主が設定したキーワードが急には変わらない(増えない)と仮定すれば、見えない機会損失をカバーするために、テキストフィールドが固定化されている拡張テキスト広告ではカバーできない(ゆえにオークションの対象と判定されなかった/対象だったが閾値を越えなかった)検索クエリに対して動的に広告文をマッチングすることで、広告の表示機会を増やすことが必要になります。
「ユーザーのニーズというのは常に複雑に揺れ動いていて、それを1つの固定のフォーマットで合わせていくのは無理があるから、それなら広告側を動的にしてしまえ」という、ある種乱暴な方向感の一つの回答が、RSA というわけです。
実際、適切に設定された RSA が部分一致キーワードと合わさると、一般的にはインプレッション(≒マッチングしたクエリの数)は増加します。
Google は機械学習を利用して広告やマッチタイプを辞書的なアルゴリズムから統計的なアルゴリズムへと年々移行させることで、「増大しつづけるユーザーの多様性」と「旧来の広告設定」との間に横たわる大きなギャップを埋めようとしています。RSA の発表から4ヶ月後の2018年9月には、完全一致のマッチタイプへ「類似パターン」の拡大を適用していますが、これも検索クエリにマッチングさせる機会をキーワード側から増やすアプローチだと考えると、RSA の登場に合わせて実装してきた目的がハッキリ見えてくるのではないでしょうか。
リンク:Google広告の完全一致の「類似パターン」が拡大し、機械学習の浸透がより明確に | AdMarkeTech.(アドマーケテック)
カバレッジ(Coverage)とデプス(Depth)の最大化が生命線
網羅的な完全一致のキーワードリストを作ることなく、大量の固定化されたテキスト広告を作る必要もなく、シンプルな設定で技術革新の恩恵を最大限受けられるように Google がプラットフォームとして進化を続けていることは、ユーザーや企業にとって利益が大きい反面、一義的には Googleそれ自身のためだとも考えられます。(というか、そう考えるのが自然です)
検索結果の品質を担保したうえで Coverage(カバレッジ:すべての検索クエリに対して広告が表示されている割合) や Depth(デプス:検索クエリあたりの表示される広告の数)を増やし、結果的にクリックの機会と総数を増やすことは、クリック課金で売上を得ている Google の収益にそのまま直結します。
以下の記事は、検索エンジンのビジネスモデルについて端的に語られている Unyoo.jp の記事(2014年)ですが、ここで示された式を見てみると、それから4年後の2018年に登場する RSA という広告フォーマットの狙いと、なぜそれが必要だったかを理解する一助になります。
リンク:RPM、そのビジネスの中心 | Unyoo.jp
詳しい解説はリンク先の記事を読んでいただくとして、検索広告の収益モデルを分解した上記の式では、要素として端的に4つ(CPC|Coverage|Depth|Ad CTR)が登場しています。
このうち、CPC(クリック単価)は、ご存知のとおり世界的に10年くらいずっと低下傾向です。デバイスの急速なモバイル化や、収益における米国以外の地域の比率の高まり、検索以外の広告ビジネスの成長など、さまざまな要因が混ぜ合わさった結果ですが、基本的には強烈な成長とカバー範囲の拡がりによる結果なので、避けられません。むしろ方向としては健全だといえます。
そして、Ad CTR(広告のクリック率)も、基本的には大きく変化しません。極端にいえばプラットフォームが「広告しか存在しない世界」を志向することで引き上げることはできるかもしれませんが、その先の世界にユーザーは存在しないと思いますので、想像自体は自由ですが実際は SF に近い設定です。現実の平均CTRは、利便性とフォーマットの進化によってバランスされています。(もちろん個別のミクロ的事情では引き上げる施策は常にトライされていますが)
そのため、プラットフォームが成長の変数として現実的にコントロール可能なのは、Coverage と Depth、つまり Quantity(量)に当たる部分になります。RSA の導入によって検索クエリとのマッチングを増やすことで、オークションに参加する広告が増える(≒Coverageが引き上がる)というわけです。
自動入札は、広告フォーマットと両輪
一方で、広告が表示されるかどうかを決めるのは、広告ランクです。広告がオークションに参加しても、広告ランクが低ければ広告は掲載されません。仮に RSA によってカバーできる検索クエリが増えたとしても、それが必要な広告ランクの閾値を満たさないかぎり広告は表示されず、Coverage も増えません。
このあたりは(これまた古い記事ですが)、以下の記事もご参考ください。
リンク:検索連動型広告の品質計算、あるいは閾値の違いを表す1枚のスライド | AdMarkeTech.(アドマーケテック)
ここ数年の Google の自動入札への傾倒ぶりはすさまじいですが、RSA の普及だけでは Coverage の増大に対してパンチが足らないことが、結果的に自動入札のゴリ押しにつながっているのではないかと思います。(順番としては自動入札の方が RSA よりも前に登場しているので、この書き方はおかしいのですが)
Coverage がない、あるいはオークションが活発でないクエリは Depth がゼロあるいは非常に少ないため、オークションプレッシャーがかからずに CPC は一般に低く済みますし、新たなクエリはコマーシャルクエリばかりとは限りません(むしろインフォマーシャルクエリの方が多い)ので予測のコンバージョン率(以下:CVR) が低くなりやすいため、やはり入札される CPC の平均には下降圧力がかかります。
Google が強く推奨している目標CPA(tCPA)のようなコンバージョン目的の自動入札モデルは、クリックに課金された金額の合計がコンバージョンの実効費用としてバランスしている限り(つまり CPA が見合っている限り)、CVR がどんな値であっても基本的には問題ありません。RSA が ETA と比較して大幅に低い CVR だったとしても、RSA によってもたらされる平均CPCが低く収まっていれば、理論的に CPA は見合います。
拡張CPCでは入札する上限CPCのレンジとインプレッションの配分があらかじめ決まっているため、予測CVRから逆算して動的な入札が行われる幅が、目標CPAと比べると狭くなります。そして、検索クエリをカバーする範囲が広い RSA であれば、「予想されるコンバージョンは少ないがクリックが低コストで済む可能性」、あるいは「予想される CVR が高いがオークションプレッシャーが低いクエリ」を発見する確率が高まるため、tCPAによってオークション機会を広げるインセンティブが働きます。
結果として、単価の上限や振れ幅が決まっている入札モデルよりも、目標とする CPA に合えば CPC と CVR の内訳は問わないという自動入札の方が、クエリとのマッチング機会を増やす RSA と相性がよいと言えることになります。
もちろん、費用対効果が見合っていて、ビジネスの条件が安定していることが大前提ではありますが、成果が安定している間はマッチングの機会を増やすために閾値を超える(広告が表示される広告ランクを維持する)ように動きますので、拡張CPCに比べて Depth は増えやすくなります。繰り返しになりますが、RSA は tCPA といった自動入札の環境下でこそ、プラットフォームにとっても広告主にとっても効果的に回っていくということなのでしょう。
もう比べるのはやめよう
冒頭でも言及したとおり、RSA と ETA は比較対象ではなく補完関係であり、そう訴えている記事もこれまで幾つか出ています。その中でも、割と説得力の高い比喩の記事がありましたので意訳してご紹介します。(かなりの抄訳なので実際は原文をご参照ください)
リンク:RSAs vs. ETAs: Stop Comparing CTR | PPC Hero
”ETA と RSA を、CTR で比較することはしないように。RSA は様々なクエリをカバーするため、ETA とは Apple-to-Apple のテストになりませんし、Googleが言うように、RSA はあくまで ETA を補完するものとして位置づけられています。
自身がドーナツ屋を経営していると考えてみましょう。おいしいドーナツが評判を呼んでお客が集まりだしたため、客単価を上げるためにコーヒーの取り扱いを始めました。1ヶ月が経って締めてみると、売上の中でコーヒーが全体の20%を占めていたことがわかりました。
あなたは売上が2倍にならなかったことに失望するでしょうか?しないですよね。むしろ(コーヒーがなければ)逃していた売上を可視化できました。ETA と比較して劣る RSA を停止するという行為は、「ドーナツと比較して売れていないので、コーヒーの販売はやめよう」と考えるのと同じで、愚かなことです。"
RSAを利用するときの3つのポイント
上記の記事には「RSA を利用するときの3つのポイント」が記載してあります。既に広告運用者はご存知の部分も多いと思いますが、最後に少し解説を兼ねてご紹介します。
(1)広告Gごとに1日に最低でも50インプレッション以上(ホントはもっと欲しい)
(2)大抵、ブランドキャンペーン【以外】で効果を発揮
(3)季節変動や期間限定等の大きなキャンペーン変更中にテストしない
この中で大事なのは、やはり(2)ではないかと思います。
ブランド系の検索クエリを狙ったキャンペーンでは、そもそも「クエリの幅が狭く」「ユーザーが求めているものが比較的明確」という特徴があります。
その場合、RSA の利点である「たくさんの種類のクエリを拾う」「訴求のパターンを増やす」が、ユーザーとのマッチング上、必ずしも優位に働きにくくなります。
これは tCPA のような自動入札にも同様に当てはまります。ブランドキャンペーンのような、高い品質や CVR を出しやすいキーワードと広告の組み合わせが既に存在している場合、tCPA のような予測CVR から逆算して上限CPCを決めていくタイプの広告は、ブランドキャンペーン自体が高い品質を出しやすく平均CPCを安く抑えられるにもかかわらず、品質や予測CVRの高さによって上限CPCが計算上過剰に高くなりやすく、タイミング悪く競合他社が進出してきてオークションプレッシャーが少し高まっただけで、平均CPCが急騰し極端に支出が増えやすいというリスクを抱えています。
運用型広告では、そもそも結果をコントロール下に置きやすいキャンペーンがブランドキャンペーンくらいしかないような場合も多いため、そのコントローラビリティをわざわざシステムに明け渡すのは運用管理上得策とはいえない場合が多いです。
これは逆説的に、変動要素が大きく、見えない機会損失が多いブランドターム【以外】の一般的なキャンペーンでは、RSA や tCPAのような動的広告と自動入札の組み合わせが効果を発揮しやすいということの証左でもあります。
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