テレビ画面での動画視聴が大幅な伸長
2020年の春は、先進国を中心に大規模なロックダウンや外出の規制が行われた影響で家にいる時間が増え、比例して動画の視聴時間が大幅に増えました。
なかでもリビングで動画を見るというシーンが増えたようで、Google によると2020年3月の YouTube のテレビ画面での総視聴時間は前年同月比で80%も増加したそうです。
リンク:New YouTube features to help you navigate the streaming boom
上記の記事では大きく伸びたカテゴリの一部が公開されており、Feature length movies(長編映画) や TV shows(テレビ番組) 、Live content(ライブ映像)や Documentaries(ドキュメンタリー)など、まとまった時間があり、大きな画面で見たくなるような動画コンテンツがテレビ視聴で好まれていることがわかります。
これまでも YouTube はすべてのストリーミングサービスの中で突出したリーチと総視聴時間を誇っていましたが(特に視聴時間では全体の4分の1を占めていたそうです)、この春にテレビでの視聴時間が大幅に伸びたことで、「テレビへの広告配信面としてのYouTube」という新たな価値に注目が集まっています。
YouTube は 「TrueView for Shopping」 や 「TrueView for Action」 などのダイレクトレスポンス系の広告が人気を博しているものの、テレビ画面では(現時点では)物品やサービスの購買までたどり着くことが難しいことが多く、YouTubeは増え続けるテレビ画面需要に広告の供給を合わせるために広告面としての価値を広告主に証明する必要に迫られていました。
そのような背景から、Google はブランドリフト調査の対象にテレビ画面を含める準備を進めています。(2020年夏頃を目処に広告主向けにリリースされるとのこと)
また、2020年5月発表の「YouTube Select」では、テレビ向けのストリーミング専用のパッケージを作るなど、テレビで視聴しているオーディエンスに向けたソリューションを意識的に展開してきています。リンク:Make the best of YouTube yours with YouTube Select
今後はブランドリフトが気軽に使え、かつ配信方法も増えていくことで、ブランド認知向けの広告予算を動画広告へ誘導しやすくなるはずです。
在庫増により主要デバイスのCPMは下がるも、テレビ面は維持した理由
テレビ画面の存在感は他のレポートからも伺えます。
2020年5月に IAB はコロナウイルスが広告市場に与えたインパクトを算出したレポートを分野別(バイサイド・セルサイド)に出しています。
すべてのデバイスでCPMが30%近く下がるなか、OTT や CTV と略されるコネクテッドTVは微減にとどまり、単価を維持しました。
リンク:FY 2019 Internet Ad Revenue Report & Coronavirus Impact on Ad Pricing Report Q1 2020
この結果を見て「テレビには強い需要がある」と判断することもできますが、実際はオークションモデルに左右された結果とも言えます。
デスクトップやモバイル面は配信面のプログラマティック比率が高いため CPM が需給バランスに合わせて動的に変化しやすいのに対し、OTT などはプレミアム面として固定価格モデル(Fixed-price)で取引されることが多いため、他のデバイスと比べて価格の変化が起きにくかったと考えられます。
だとすると、前年同月比で視聴時間が80%も伸びているような市場では、CPM の維持よりも確実に約定して収益化できることの方が重要です。
固定価格モデルでは短期的な単価の下落が起きにくい(変化にリアルタイムで対応できない)分、ロックダウンのような特殊な環境下では広告在庫の増加(≒視聴数の増加)と需要の減退(≒広告主の減少)が同時に発生し、売上に寄与しない余剰在庫が大量に発生したことでメディアの経営を圧迫してしまいました。
Google は2020年4月にニュースサイトが利用するアドマネージャーの利用料を当面の間無料にすると発表するなど、プラットフォーム側のサポート必要なほどにメディアの収益性が短期的に悪化しています。
リンク:Fee relief to support our news partners during COVID-19
こういった状況を契機に、今後は TrueView のようなプログラマティックモデルの採用が他の OTT/CTV 系の広告ネットワークでも進んでいくのではないかと考えられます。
そうなると、広告を配信する側である広告主/代理店側は大画面に堪えられるクリエイティブの迅速な制作機能が求められてくると考えられますし、同じ「動画広告」でも配信面や配信するデバイスの特性に合わせて表現がガラリと変わることが今以上に当たり前になるはずです。
それぞれのプレイヤーにとってたいへんな状況ではありますが、場に合ったクリエイティブの要請は広告の本来の仕事でもあります。
それがダイナミックにできるようになったと考えれば、面白い時代になったとも言えますね!
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